珍道中決定
今後の交渉のため、アンジュさんを呼ぶ許可を貰い、この場でアンジュさんがやって来るのを待つ。
「それにしても……君、若いのに中々度胸があるな。戦闘は弓以外はからっきしのようだが。ハルカに移住しないかい? 君なら将軍もすぐだ」
突然のエスターからのスカウトだ。
「ならぬ。シビルは我が国のものよ。シビルのスキルは我が国でも貴重なものだ」
「未来すら見通せるスキルか。俺が、来ることも読んで予め大穴を仕込んでたわけだろ?」
「そうですね。まさか、巌窟龍ですら倒せないとは思いませんでしたが。勝率は五分五分でした」
「なるほどね。未来は不確定な訳か。だが、便利なもんだ。帝国を追い出されたら、いつでも来るといい」
とエスターが笑う。
まさか先ほどまで殺し合っていた剣帝と話すことになるとは。
話していると、アンジュさんが現れる。
「あら、なんか落ち着いているわね。何があったのか、話してくれるかしら?」
アンジュさんも、首を傾げながら、尋ねてきた。俺は今回の戦いの顛末を話した。
その後、リズリーさん、バルデン侯爵も呼び、瞬く間に停戦条件が決められた。
ハルカ共和国は兵を退かせること。帝国に賠償金を支払うことに同意した。
一方、こちらはアルデド麦の群生地情報の提供。そして……。
「俺もアルデド麦の群生地まで同行が条件⁉ 冗談でしょう? 場所言いましたよね?」
俺は大声を上げる。なぜならアルデド麦の群生地は北部の大魔境。ここ数百年人間が入ることはなかった、
人知を超えた魔物が跋扈する魔境である。
「お前も案内すんだよ。大まかな地図だけじゃどれだけ探せばいいか分からないだろう?」
エスターが言う。理屈は分かる。理屈は分かるが、明らかに自殺行為である。虎の群れにハムスターを入れるようなものだ。一瞬で白骨死体のできあがりである。
「冗談じゃありませんよ。覚醒者ならともかく、私のような一般ピープルが行ったら、三日も持ちません!」
「なに、心配すんな。俺が守ってやる。現役の剣帝が護衛に就くんだ。こんな贅沢はねえ」
エスターがにこりと笑う。このおっさん、何考えてやがる。
エスターは俺に耳に、口を近づける。
「なんで俺だけあんな怪物見本市に行かねえと行けねえんだ。お前も道連れよ」
このおっさん、最悪だ! 大魔境に行くとなると、剣帝を出すのは分かる。他じゃ戻ってこれないからな。だが……俺を巻き添えにするなんて。
悪魔の所業である。
「アンジュさ~ん」
俺はアンジュさんに助けを求める。
「シビルちゃんの気持ちも分かるんだけど、やっぱり曖昧な情報だけで行けともいえないのよ。あなたしか分からない訳だし。帝国の代表として、頑張ってね!」
アンジュさんからも諦めの言葉を頂いた。
詰んだわ。
「では案内を頼むよ、シビル君」
「アンジュさん、しっかりとこの手間も含めて評価お願いしますよ」
「分かってるわよ。大隊長討伐に、伏兵の発見。そして王子奪還にアルデド麦の入手。大手柄だらけよ。しっかりと正当な評価をするわ」
評価と言っても、生きて戻ってこられてこそである。
なにが悲しくて、おっさんと命がけで大魔境珍道中をしないといけないんだ。
俺は今回の頑張りの結果に溜息しかでなかった。
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