怪物には怪物を
鬼ごっこは数分だった。俺は、遂に馬を止める。
「あれ、鬼ごっこは終わり?」
既に、多くの兵士が時間稼ぎのために奴に向かい、散って行った。
俺達は馬を降り、エスターを囲む。エスターは囲まれているのにも関わらず、全く焦った様子がない。どうとでもなると思っている顔だ。
完全にこちらを下だと思っているのが分かる。俺達だけなら負けるはずがないと。
だが、俺達はその油断をつく。
「お前達、シビル隊の誇りをみせろ!」
俺の言葉を聞いた皆の顔が変わる。これは味方への合図だ。
エスターの四方を囲っているシャロン、ライナス達白虎族が宙に跳ぶ。
「複数人で襲えばなんとかなると思われているのなら、心外だね。子供達」
エスターは剣の柄に手をやり宙を見やる。奴の集中が上に向いた。次の瞬間、エスターの立っている付近の地面が揺れ、崩れる。
予め仕込んでおいた、落とし穴作戦である。全てはこの時のために。
「落とし穴⁉ だが、これくらいで……」
その穴は深く、そこが見えないほどの大穴だった。
エスターが地面を失い、バランスを崩した一瞬を狙う。
「「「白閃咆 !」」」
「天使の唄! 月下の徒花!」
白虎族達の口から、白き光線が放たれた。
そして全身を強化したシャロンからも三日月型の斬撃が放たれる。
エスターはそれを剣で受け止めた。エスターにダメージは全くない。だが、攻撃に押し出され、エスターは大穴へ落ちていった。
俺は静かに、大穴の付近にまで近づくと、大穴に向かって語り掛ける。
「なあ、エスター。覚醒者の強さはここ数日でよく分かった。殆どの奴等は勝てないだろう。じゃあ、誰なら勝てるか、って話になるよな。その答えはその中にある」
俺は予め用意していた巨大な音爆弾を大穴の中に放り込む。白虎隊に入手してもらった物だ。
「巌窟龍・エイルディーバ。我が領の生態系の頂点に君臨する古龍。嫌いなことは睡眠を邪魔されることらしい」
次の瞬間、大穴の底から凄まじい爆音が響く。 音爆弾が破裂した音だ。
「ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
次の瞬間、古龍の怒りの叫び声が響く。
「剣帝は……ドラゴンスレイヤーになれるのかな?」
俺はそう尋ねると、大穴に背を向ける。
「逃げるぞ! 剣帝の始末は、古龍に任せる!」
俺の言葉を聞き、皆再び馬に乗る。
「まさか、かの有名な巌窟龍を戦術に使うとは……君は恐れ知らずだな」
王子が驚いたような顔でこちらを見る。
「一石二鳥って奴です。それに……どっちも化物ですから」
俺の言葉を聞き、王子はそれもそうだ、と呟いた。
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