救出
「どういうことだ! 第二王子は戦場に参加していなかったはずだろう!」
「右翼軍の戦いには居なかったぞ!」
突如降ってわいた情報に混乱を見せる。
「落ち着きなさい。何があったの?」
アンジュさんが冷静に尋ねる。
「実は……右翼でも一番右端に王子はいらっしゃったのですが、平野から見える森で、農民達が共和国軍に捕らえられて連行されていたのです。それを見た王子は、農民の救出を主張されました。近衛兵を引き連れ、農民達の救出に向かったのですが、それは王子を捕えるための誘いだったのです。敵の精鋭が待ち伏せておりまして、王子は捕らえられました……」
王子の正義感を利用した策だったようだ。
「なんということだ……王子を盾にされたらどうしようもないぞ」
「奴等の要求を飲んだとして王子が戻って来る保証はない!」
「見捨てることなどできるか!」
完全に皆、動揺していた。
「どうされますか?」
冷静に、ポスカが尋ねる。
「王子の命を盾にされれば……交渉をするしかないわね」
アンジュさんは交渉と言ったが、やつらはバルデン領、パンクハット領を要求するだろう。すなわち今回の戦いの敗北を意味する。
「そこで退いたとしても殿下が助かるという保証はない。私は抗戦を希望する」
バルデン侯爵ははっきりと意思表明をする。自領を丸々渡す訳にはいかないのだろう。
リズリーさんも深刻な顔で眉を歪めている。
「救出すればいい!」
一人の幹部が言う。
「どうやって? どこにおられるかもわからんのだ」
「敵もこちらの救出を警戒しているだろう。今から救出部隊を出したとしても、良い結果になるとは思えん」
皆、一様に口を噤む。王子はこちらのアキレス腱ともいえる存在だった。
皆の顔が絶望に沈んでいる。
「一つよろしいでしょうか?」
ここで俺は声を上げる。
「どうしたのかしら、シビルちゃん」
「我が別動隊を森の中に潜めさせております。殿下の救出のために、別動隊を動かしたく思いますが、よろしいでしょうか?」
「何を言う!貴様の勇み足で殿下がお亡くなりになったらどう責任を取る!」
「若造、調子に乗るなよ!」
俺の提案に、苛々している幹部の批判が集中する。
「シビルちゃん、殿下の場所と、別動隊の位置は貴方なら把握もしているんでしょう? そのうえで聞くわ。可能なの? 失敗したら、ただの懲罰じゃすまないわよ」
真剣な顔でアンジュさんがこちらを見つめる。強い意志を持った顔だ。
「可能です。別動隊は我が部隊の主戦力三百。精鋭です。剣帝の元まで捕らえられた場合は、もう救出は不可能です。ですが、護送中であれば我が部隊でも救出は可能です」
俺の言葉を聞いたアンジュさんはしばらく考えるようなそぶりを見せる。
「……任せるわ」
「アンジュ様、本気ですか!?」
「このままでは手が無いのも事実よ」
「アンジュ様が出れば……」
「不死鳥がこちらを監視しているわ。私や、ポスカが動けばすぐさまあの鳥が出張って来る。今、大量の軍を出した場合、必ず捕捉される。シビル隊少数くらいならともかくね。頼んだわよ」
「必ずや、第二王子を救出いたします」
俺は跪いて頭を下げ、すぐさま天幕を出る。それを追ってくる姿がある。リズリーさんだ。
「聞いていないぞ! お前は第二王子が捕縛されることを知っていたのか!?」
「いえ、リズリー様。念のために配置したまでです。私のスキルでも全てを読むことは不可能。ですが、別動隊であある魔術師団が潰された場合、敵は諦めざるを得ません。その時の次善の策として、第二王子が狙われる可能性を考慮しました。それに……近衛兵五百を倒しての捕縛、我が別動隊が援護しても勝てはしなかったでしょう」
これは本音である。
まあ、実は王子が狙われることは知ってたんだけどね。捕らえられる未来は変えられなかった。その後、助けられるかは……俺にかかっている。
「そうか……。なら仕方あるまい。だが、次からは私にもっと報告しろ。虎の子の別動隊についてもだ」
「はっ! 失礼いたしました」
俺は頭を下げる。
「まあいい。お前の別動隊のお陰で、首の皮一枚繋がったんだからな。後は、頼んだぞ。パンクハット軍の雄姿をみせろ」
「承知しました」
リズリーさんはそう言って去っていった。
俺はすぐさま、シビル隊の元へ戻る。既に情報が洩れているようで、皆暗い顔をしていた。
「王子が捕縛されたというのは本当か? ならこの戦はもう……」
「シビル様! 王子が捕まったのなら、もう白旗ですか?」
「いや、シャロン。ルイズ。勝負はここからだ。お前達、激戦で疲れているのは知っているが……準備を頼む。今から動く」
「え? どこに……」
「勿論、王子を救いにさ」
俺はそう言って笑った。
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