積み重なる
中央軍の戦いを本陣で見守っている剣帝エスターは眉を顰める。
「おかしいな……そろそろのはずなんだが」
(魔術師団には背後を取り次第、極大魔法で一気に敵兵を減らすようにつたえてあるんだが……おかしいな。嫌な予感がする。もしや内通者が居たか? いや、これは一部しか知らせていない。それはない。だが、嫌な予感がする。やられている? 精鋭のはずだ……並みの兵では一万人居ても勝利を収められるほど)
エスターは思考の海に沈む。よもや神解というスキルで伏兵の数、場所、時間、全てが筒抜けだとは彼も予想できなかった。
だが、彼も歴戦の猛者。既に魔術師団に何かあったことに気付いていた。
「俺も、そろそろ出よう」
エスターが立ち上がる。
「魔術師団との同時攻撃のはずでは?」
幹部の一人は大将の突然の出撃に驚く。
「嫌な予感がするんだ。後、一つ頼みたいことがある」
エスターは幹部に話し終えると、自慢の剣を持つと一人で敵陣へ向かった。
遂に、剣帝が動く。
剣帝はローデル中央軍の左端にふらりと現れた。あまりにも自然に現れ、鎧も来ていないため民間人かと兵士が勘違いしたくらいだ。
だが、その考えは一瞬で塗り替えられる。
剣を一度軽く振るった。ただ、それだけだった。それだけで、数百人が一閃されたのだ。
達人の一撃は末端の兵士では、スローモーションに見えた。それが、走馬灯なのか否かは誰にも分からない。
敵の大将の姿は知らずとも、それだけでローデル兵は悟った。
この男こそ剣帝だと。
「け、剣帝が出たぞーーーーーーーーー!」
男は快楽に溺れる様子も無く、悲しそうにするでもなく、淡々と剣を振るい、そのたびに血の雨が降った。
まるで草むしりの草のように人が瞬く間に死んでいく。
やべえ。誰にも止められない。どんどん削られる。俺が行くべきか? 駄目だ。あれは俺にも、シャロンにも、誰にも止められない。
化物ばっかりじゃねえか。
『相棒……奴はやべえぞ。昨日の不死鳥よりもやべえ』
ランドールが言う。それは俺も感じていた。どちらも強いのだが、剣帝の方が上だと感じられる。
こんな化物ばかりの戦場でいったい俺達一般兵に何ができるんだ。奴等のような覚醒者が英雄なのだとしたら、俺は一市民に過ぎないのか?
「そんな……一人の力で全てが解決するなら、俺達兵士は何のために集められたんだ。覚醒者だけで戦場は変わらない、ってことを証明してやる!」
天災のように死を振りまく覚醒者を尻目に、死が積み重なっている。
弱者には弱者の戦いがある。今の俺の実力じゃあの二人は止められない。なら、せめて……。
「シャロン、左翼を蹂躙して敵の数を減らす。それがきっと……後に生きるはずだ!」
ウィルタイガーはまだ本調子じゃない。今なら。俺達は目の前の敵に集中しよう。
「ああ……シビルの言う通りだ。悔しいが……今はできることを」
俺達は必死で戦う。この戦いに勝利するために。
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