俺の英雄様
俺は負傷したであろうイヴのお見舞いのため、彼女の天幕へ向かう。
「イヴ、大丈夫か?」
天幕には、右手を包帯で巻かれたイヴが座っていた。
「シビル、お疲れ様。右手は大丈夫だよ、治癒師に治療してもらったからね。明日もたたかえるわ!」
と力こぶをつくって見せるイヴ。
「そっか、良かった……」
「今日は助けてくれてありがとう。あの一射がなければ死んでたかもしれないから」
「イヴが無事で良かったよ。あの一射のおかげでイヴが助かったのなら、俺はそれだけでいい」
「援護がなくても勝てれば良かったんだけど……。結局ウィルタイガーは逃がしちゃった」
落ち込んだ顔でイブが言う。
「前よりずっと、ずっと強くなってた。前に会った時から鍛錬してたんだな、って分かるくらいに。次は勝てるさ。路地裏で助けてくれた時から、君は俺の英雄だからね」
俺の言葉を聞き、イヴの顔が朱色に染まる。
「シビルって、時々そう言う恥ずかしいこと平気で言うよね」
少しだけ頬を膨らませたイヴが可愛かった。
「えっ? ごめん」
「いや、怒ってる訳じゃないんだけど……もう! そんなこと言われたら、格好いいところ見せたくなるじゃん。帝国騎士団第三師団イヴ・ノースガルド、この剣に誓って活躍をお約束しましょう」
イブはレイピアの先を天に向け、告げる。
「お願いします、俺の英雄様」
俺はにっこりと笑った。
ハルカ共和国軍野営地内にある天幕でも同様に軍議が行われていた。
勿論話の中心は、大将エスターと副将ヨハンである。
「うーん。こちらの左翼は潰されたけど、そこまで戦況は悪くない。魔術師団の転移陣も奴の裏側に繋がったらしい。これで魔術師団もあちらの裏を取れる。背後を取った時、一気に勝負をかけようか。俺も出よう。ヨハン、アンジュさんはどうだった?」
エスターがヨハンに尋ねる。
「あのおかま野郎、本当に強ええぜ。だが、負けるつもりはねえ」
ヨハンは楽しそうに笑う。
「負けるなよ。覚醒者の数は勝敗に直結するからな」
「不死鳥ってのはしぶとさがうりでね。明日こそは火葬してやる。崩れた左翼はどうするつもりだ? 雑魚そうな貴族のおっさんが大将だったが殺されたらしいじゃねえか。大隊長より上、もう居ねえだろう?」
「……ウィルタイガー、君に将を任せようと思う」
エスターの言葉に、幹部達の驚きの声がわずかに漏れる。
その言葉を聞き、ウィルタイガーが前に出る。
「有難く。若輩者ではありますが、精一杯務めさせて頂きます」
ウィルタイガーは跪いて頭を下げる。その腹部と腕には包帯が巻かれている。
「若いのに申し訳ないね。左翼軍の人達はウィルタイガー君を補佐してあげてね」
「「「はっ!」」」
何人かは苦い顔をしていたが、口には出さない。上官の命令は絶対だからだ。
「お前か……。あんまりがっかりさせんなよ。そん時は俺がお前を殺すからな~」
ヨハンは手をひらひらとさせながら、天幕を出ていった。
「あいつ……気にしなくてもいい。俺がそんなことは絶対にさせないから。では、明日勝利を手にし、帝国領を奪う。そして、食料を。民のために!」
「「「勝利を!」」」
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