我らが将軍
だが、襲い掛かるヨハンの爪は俺に刺さることは無く、戦槌に受け止められた。
「久しぶりね、鳥さん」
凄まじい一撃を軽く受け止めたのは、我らが大将軍アンジュさんである。にっこりと余裕の表情だ。
「よお、オカマ野郎! お前を殺したくてここまでやってきたぜ!」
ヨハンは殺意を溢れさせながらも嬉しそうに笑う。
「相変わらず品がないわね。その言葉で落ちる女は居ないわよ?」
「減らず口を……。その首飛ばしてやる! 青焔天!」
ヨハンの両翼が青く光ると、口から青く輝く火焔を放つ。
「雷槍」
アンジュさんが巨大槌を下から掬うように振るうと、巨大な雷の槍が放たれる。
火焔と雷がぶつかり合い、左右に大きく爆ぜた。
「ギャアア!」
乱戦の中で放つものだから、両軍の兵士が大量に犠牲になる。
「ベイビーちゃん達、放れてなさい! 私達の戦いに巻き込まれると、無事じゃ済まないわよ!」
「アンジュさん、ありがとうございます。逃げるぞ!」
俺は隊に指示を出し、すぐさま二人から距離を置く。
「シビル、さっきのはどういうことだ?」
シャロンが、凄まじい形相でこちらを睨みつける。
「すまない……せめてシャロンだけでも、と思ったんだ」
「二度とするな! 私は、主君を失ってのうのうと生き残るつもりなどない!」
シャロンは俺の胸倉を掴み、叫ぶ。
確かに、彼女の覚悟を踏みにじったな。
「本当にすまなかった」
「まあ……お前が私のことを心配して行動してくれたのは理解している。今に、奴からもお前を守れるようになるから……心配するな」
シャロンはそっぽを向きながらも言う。
「期待している」
「あの……シビル様、痴話げんかはそれくらいで。ここは戦場です」
ルイズが気まずそうに言う。
うっ……。ルイズに注意されてしまった。これは恥ずかしい。
「周囲を援護に向かう。メーティスがあれば、最も援護が必要なところに向かうことも可能だ」
俺は頭を下げると、隊を引き連れ、様々な隊の援護に向かう。
俺は自分の出来ることを精一杯行う。
それが戦場全体では小さくとも。
今日の戦いは夕方まで続いた。死傷者の数は敵の方がわずかに多い程度。俺達右翼軍は勝利と言えるが、他は勝利とは言えない結果であった。
「明日が山場ねえ。今日は剣帝が出て来なかったし、ポスカちゃんも出てない」
今日の戦況を分析するアンジュさん。野営地の中心部に張られた天幕内には主要人物達が集まっていた。
「あの男程度、アンジュ様ほどの方が動かれなくとも私が始末しましたのに」
副将であるポスカが言う。
「いいのよ。少し体を動かしたかったから。それにしても通常の人間なら二回は殺しているはずなのに、『不死鳥』スキルは本当に厄介ねえ」
と手を頬にあて溜息をつくアンジュさん。
「アンジュ様、明日のハルカ宮廷魔術師団、私が行きます。確実に殲滅するなら私がよろしいかと」
「洞窟内……確かにあなたが適任でしょうね。ポスカ、任せるわ」
「ありがとうございます」
「千人くらい連れていく? 敵は五百とは言え、精鋭の魔術師よ」
「いえ。百もいれば十分です。なにより、私一人いれば事は足りるので」
ポスカさんははっきりと言い切った。おいおい、魔術師五百人って軍隊を軽く滅ぼせる人数だぞ……。大丈夫なのか? だが、アンジュさんの反応はあっさりしたものだった。
「それもそうね」
そこで手をあげる男が居た。王子である。
「本日、私達の出番はほとんどなかったが、明日こそは戦わせてもらうぞ!」
とはりきっていらっしゃる。それを近衛兵達が、必死で宥めている。
「王子、我々は最後の切り札です」
「何かあったときに、大将であるアンジュ様や、民を守れるのは我々だけです」
頑張れ、近衛兵……。俺はその様子を見守っている。だが、王子様は大変ご不満のご様子。
「私が動かねば、兵士達もやる気が出まい。王が動く故、兵士達もやる気が出るのだ」
うーん、間違ってはいない意見だけに批判もし辛い。
「王子という旗印がいらっしゃるだけで兵士の士気は高まりましょう。もし何かありましたら、士気に大きな影響が出ます」
俺も一言添えておく。今日、置物にしたのは俺達右翼軍だからだ。
「うーむ……分かるには分かるが……」
納得のいっていないご様子だが仕方あるまい。
その後も、細かく明日の戦い方について話し合った。皆の顔に疲れが出始める頃、アンジュさんが締める。
「敵は魔術師団の援護もあり、明日で決める予定よ。敵も総力でくる。覚悟しなさい」
「「「はっ!」」」
こうして軍議は終了する。
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