ウィルタイガー
「貴方は私を覚えてないでしょうね。けど、私はあんたを忘れたことは無かったわ」
イヴはそう言って睨みつける。
「随分、情熱的な告白だな。その目……敵討ちか?」
「あんたは、リミーを覚えている? 去年、貴方が殺した女の子よ」
ウィルタイガーは顎に手をあて、考えるそぶりを見せる。
「知らんな。戦場で殺した者の名などいちいち覚えていられるか」
「風弾!」
その言葉に反応し、イヴが突きを放つ。その先からは風の弾丸が放たれる。ウィルタイガーはそれも器用に躱す。
「お前、その技……。去年の戦争で戦った女に、くっついていた女か。あの女、覚えているな。雑魚だったぜ」
その言葉を聞いたイヴが激昂する。
「民間人を狙ってリミーを殺したお前が……! 何を言う! リミーはお前よりずっと強かった! お前が卑怯な手さえ使わなかったら、決して負けなどしなかった!」
イブが叫ぶ。
「卑怯? お前、ここをどこだと思ってやがる。ここは戦場だ! 勝った奴が正義で、負けた奴は、悪! お遊戯会なら、城の中でやるんだな!」
ウィルタイガーはそう言うと、両手をまえに翳し、特大の爆発を起こす。
凄まじい爆煙が戦場を包む。
「イヴ……⁉」
俺は本能的に矢を番える。すぐに放てるようにだ。
だが、イブも負けてはいなかった。爆風の中からウィルタイガーに突きを放つ。その一撃は奴の右肩を貫いた。
「ウィルさん!」
「騒ぐな。陣形が乱れている。立て直せ。こちらは人数では勝っている。着実にいけ。この女は囲んで仕留めろ」
ウィルタイガーはイヴに気を取られているうちに崩れた陣形の立て直しを図る。
イヴの周りに敵兵が集まり始める。
「やっぱりプライドも何もないのね。所詮はただの略奪者。その品の無い立ち振る舞いで分かるわ」
イヴがウィルタイガーを煽る。それを聞いたウィルタイガーが眉を吊り上げる。
「お前は良い服を着ているな。金のある良い家庭だったんだろう。お前に分かるか? 日に日にやせ細る弟達に米粒一つ上げられない気持ちが! 素手で土を掘り、食べ物を探す気持ちが!」
ウィルタイガーはイヴを睨みつけながら叫ぶ。
「満たされている貴族に、我々貧民の気持ちは分からん! 俺は他人を苦しめてでも、家族の温かい食事を取る! たとえ我が道が血に塗られた修羅の道であっても、その道を通るのみ!」
その言葉と共に、ウィルタイガーの全身から魔力が迸る。
本気だ。
「黒の榴弾砲」
ウィルタイガーの手から放たれたのは、今までと違い一方向に威力を集中した大砲のような一撃だった。
轟音が戦場に響き渡る。
イヴは大丈夫なのか?
『イヴは生きている?』
『イエス』
俺はその返事に安心しつつも、矢を振り絞ったままだ。やはり奴は強い。
あの戦いがどれだけ大事かは知っているつもりだ。それでも、イヴが危険であれば援護するつもりだ。
奴を貫けるほどの速さを……。俺は集中する。
イブは爆風の中から、風を纏い、空中に出る。
「龍風撃」
レイピアに龍の形を模した風を纏わせると、そのまま突きを放つ。風の龍はウィルタイガーに食らいつくべく襲い掛かった。
「黒の榴弾砲 」
再び放たれた両者の一撃が交差する。それは風と爆弾が混ざり、大きく爆ぜた。
周囲の多くの兵士を巻き添えに、爆発が起こる。
「ギャア!」
兵士の悲鳴が上がる。
イヴは空中にいたためその爆発に巻き込まれること無く、ただウィルタイガーを見つめていた。
空に浮いているイヴに、ウィルタイガーは銀貨を投げる。銀貨はイヴの体付近で爆発し、イヴを地面に突き落とした。
地面に降りたイヴの元へウィルタイガーが襲い掛かる。
倒れ込んだイヴの前で、振りかぶるウィルタイガー。
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