存在感
天幕内には昨日より多くの人数が既に揃っていた。
その中でも一際目立つのはやはり騎士団団長アンジュさんだろう。
なんというか圧がある。なんか天幕内の温度が少し上がっている気がする。
「あら、君がシビルちゃんね! イヴちゃんやマルティナちゃんから聞いているわ。今回はよろしくね」
そう言って、アンジュさんがこちらに大きな手を差し出す。俺はその手を取ったが、まるで大樹に触れたような錯覚を覚える。
「先ほどはありがとうございました。あの援護がなければおそらく私は死んでいました」
「間に合ってよかったわ。援軍に来て、既に領主軍が負けていたら意味がないからねえ。部下達も明日の朝には来る。速い子達はもう着き始めているわ。ポスカ」
アンジュさんから呼ばれて一人の女性が前に出てきた。
長く黒い前髪で顔の左側が隠れている。右側は綺麗な黒曜石のような黒い瞳がこちらを見つめている。年は二十代半ばといったところだろうか。どこか憂いを帯びた顔をしていた。
騎士であるのに、漆黒のドレスを着ているのも気になる。
「はい、アンジュ様! ここに」
「皆さん、紹介しておくわ。第三師団副団長にして今回の副将を務めるポスカ・アビーよ」
「偉大なるアンジュ様の右腕を務めさせて頂いているポスカと申します」
そう言って両の手でスカートのすそを摘まみ、優雅にお辞儀をする。
「そして、もう一人いらっしゃるわ」
若い男が前に出てくる。整った顔に、サラサラの金髪を靡かせる。そして一目見て分かるほど高級な服を着ていた。周りには腕利きが控えている。
「ローデル帝国第二王子ギリアムだ。ハルカ共和国の蛮行は王族として無視できるものではない! 今も民は苦しんでいる! そのため、私は立ち上がった! 皆も力を貸してほしい!」
そう剣を抜き高らかに宣言する。
なるほど、素晴らしいブレイブなハートをお持ちなようだ。強いのだろうか。そうは見えないが。
「リズリー様、あの方はお強いのですか?」
小声で尋ねる。
「いや、あの方は勇敢ではあるのだが……体はついてきていない。正直危険だから、戦場には出ないで欲しいのだが、中々注意も難しくてな」
まじかよ。気持ちだけかよ。怪我されたらシャレになんねえぞ。
皆は王子の言葉に拍手を送る。
「それでは明日の戦いについて、話し合いましょうか」
「「「はっ!」」」
流石に騎士団長クラスになると、侯爵が相手でも全く気後れすることもなく堂々と話すんだなあ、とどうでもよいことを考えていた。
「帝国騎士団二万は中央軍を担うわ。左翼をバルデン軍、右翼をパンクハット軍にお願いしたいんだけどよろしいかしら?」
「「大丈夫だ」」
「そして敵の大将は『剣帝』、副将は『不死鳥』、であることが密偵の調べで分かったわ」
アンジュさんの報告に天幕内がどよめく。
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