家族に命を狙われてるらしい
既に馬車を走らせて三日が経った。後一日程で国境だろう。俺が向かっているのはローデル帝国。俺が居たアルテミア王国よりもよほど大国である。
旅のお供である騎士二人は、俺を全く見やしない。大変暇だ。それに時折ひそひそ話をしているのも気になる。
『あの二人何か企んでる?』
とメーティスに冗談で尋ねる。
『イエス』
だが、返ってきたのは悲しい答えだ。
まじかよ。
『俺の命を狙っている?』
『イエス』
俺は馬車内で天井を仰ぎ、大きく息を吐く。
いったい誰が、って言っても限られてるんだけど。
『父の命令?』
『ノー』
違うのか。
『ハイルの命令?』
『イエス』
父でないと分かってから少し予想はしていたが、やはりはっきり言われると辛かった。実の弟から命を狙われているのだ。そこまでして次期当主の座が欲しいのか。仲が良い兄弟とはいかなかったが、ここまで嫌われていた事実に涙がでそうになった。
『今すぐ逃げるべき?』
『ノー』
『今日の夜?』
『イエス』
メーティスさんを信じよう。逃亡の決行は今日の夜だ。
夜になり、通り道の宿に泊まる。道にただ一軒ぽつんと立っており、周りには草木だけだ。俺はお供二人とは別の部屋だ。お供二人は隣の部屋に待機しているらしい。この先には魔物も居る森がある。そこを抜けると、もうローデル帝国だ。
『もう逃げるべき?』
『イエス』
『北に向かうべき?』
『ノー』
北は森だから、そちらに逃げるつもりだったがどうやらそっち方向は良くないらしい。
『西?』
『イエス』
西側か。何もなかったように思うが、そうしよう。
俺は音を立てないように、静かに宿を出る。そして西に向かおうと走るとすぐ、宿から二人が焦った顔で出てきた。とっさに俺は草木に隠れたがどうやらばれてはいないようだ。こっちに向かってこられたら終わりだ。
「おい、逃げられたぞ! なんで感づかれたんだ!?」
「知るかよ。逃がしたらハイル様に何言われるか! おそらく森の方向に向かったはずだ。馬に乗って追いかけるぞ!」
二人は馬に乗り森に向かっていった。
「実はまだすぐ傍に居たんだな、これが」
立ち上がると、二人に会わないように、静かに西に向かった。西に向かって三十分後、もう 森に向かっても良いのではと考える。道以外から森に入ればあいつらに会うことも無いだろう。
『もう森に向かっても良い?』
『イエス』
許可も出たので月の光を頼りに、森へ向かった。
夜中に森に辿り着いた後も、夜通し森を歩く。あの後、追手二人に会うこともなかった。
『三十分以内に魔物がこの道に出る?』
『イエス』
『しばらく止まった方がいい?』
『イエス』
メーティスさんの指示に従い、身を隠す。魔物とエンカウントしたら負ける可能性は非常に高い。なんとか慎重に進むしかない。既に百回以上尋ねている。
すると後ろから馬車が進む音が聞こえる。
まだ追って来てたのか、あいつら!
『このまま隠れていて大丈夫?』
『イエス』
精一杯身を隠していると、後ろから現れたのは馬車に乗った商人だった。
『奴は危険?』
『ノー』
「関わるべき?」
『イエス』
どうやらただの商人なのだろう。腰を上げ、声をかける。
「こんにちは」
「こんにちは。こんなところで人と会うとは……。傭兵? いや騎士様ですかな」
豊かな口髭を蓄え、小柄で丸々と太った商人が笑顔で言う。おそらく俺の服で判断したのだろう。
「そんなところです。貴方もローデル帝国に向かってらっしゃるのですか?」
「はい。ローデルのデルクールに」
「ほう。私もデルクールに向かっているのですが、よければ一緒に向かいませんか? これでも索敵には自信があるのです」
メーティス様に頼ればいけるはず……。
「それは奇遇ですな。良ければ是非。ですがそんなに護衛料も払えませんが大丈夫ですか?」
「それは大丈夫です。食事でも頂ければ十分です」
「助かります」
こうしてなんとか足を手に入れて、ローデル帝国へ向かう。
メーティスに細かく尋ねることで、魔物と一度も出会うことなく国境に辿り着いた。
「いやー、シビルさんの索敵能力は素晴らしいですね! ここまで出会わないことは中々無いですよ!」
と商人が興奮がちに言う。
「いえいえ」
俺は戦えないからなあ。国境付近には検問をする兵士の姿があった。
「身分証は?」
「いや、今は持っていない」
身分証も持ってこれなかったのだ。
「なに……怪しいな」
それを聞いた兵士が眉を上げる。確かに怪しいよなあ。
「まあ、何かあったら逃しちゃうかもしれないが、これは通せないかもしれないなあ」
と俺の革袋をちらちら見る。なるほど、理解した。
「すみません。身分証ありました」
そう言って、銀貨を握らせる。それを見て、兵士はにっこりと笑う。
「確かに確認した。行くがいい」
賄賂を渡したら、あっさりと通してくれた。こんながばがばセキュリティでいいのか?
だが、そのおかげで国境を超える事が出来た。その後も馬車に乗り、数日後遂に俺はデルクールに辿り着いた。
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