爆虎隊
「て、敵襲だ! ローデル兵が出たぞ!」
こちらに気付いた敵兵が叫ぶ。だが、馬はもう止まらない。
「盾兵構えろ!」
焦った敵将が部下に指示を出す。すぐさま兵士が盾を構える。だが、突然の襲撃で動揺しているのか、万全とは程遠かった。
「付与矢・【雷】」
俺は馬の上で矢を構えると、盾から少し出ている敵兵の頭を矢で撃ち抜く。三射放ち、三人の頭を射貫いた。
それにより、盾兵の隊列の一部が崩れた。その隙をシャロンは見逃さない。
「突破だ! シビル隊の雄姿を、恐怖を教えてやれ!」
シャロンは崩れた敵の防陣を一撃で完全に打ち崩した。
そのまま馬を駆るシャロンは敵将まで進む。
「おのれ……! ローデル兵如きが調子に乗るなよ」
敵将も大剣を構えて交戦の構えだ。周囲の兵も剣を持つ。
「一騎打ちにさせてもらう。シャロン、後は任せたよ」
俺は矢を番え、敵将の周囲の兵士を撃ち抜く。
「おおおおおお!」
敵将とシャロンの剣が交差する。剣がぶつかり合い、魔力が爆ぜる。馬の勢いも乗ったシャロンの一撃は凄まじく、敵将は大きく後方に振り飛ばされる。崩れた敵将の首にシャロンに二撃目が襲い掛かる。
次の瞬間、敵将の首が宙を舞った。
「敵将、シャロンが討ち取った!」
俺が大声を上げると、すぐさま兵士が呼応するように叫ぶ。一瞬の出来事に、敵兵からは混乱が感じられる。
俺が目線を向けると、ダイヤが頷く。
「囲まれているぞーー! ローデル兵は千を超えている!」
ダイヤが叫ぶ。
「どういうことだ!?」
あちこちの敵兵が動揺の声を上げる。
「東だけ囲いが脆い。そこから逃げるぞー!」
ダイヤが再度叫ぶ。敵兵の振りをして先導しているのだ。混乱した戦場では誰が叫んだかなんて誰にも分からない。
その上、指示を出す敵将は既に死んでいる。ダイヤの言葉を味方の言葉と誤解した敵兵が必死で東へ向かう。
「一人も逃がすな! 殲滅だ!」
俺は叫ぶと、背中を向けて逃げる敵兵に襲い掛かる。人間退路がないと必死で戦うものだが、逃げ場があると分かると逃げたくなるものだ。
敵兵の方が多かろうが、逃げる敵を討つだけなら少数のこちらでも楽勝という訳だ。
俺の叫びを聞きつけ、包囲に回っていた兵士達も皆敵兵に襲い掛かる。背後から散々襲い掛かり、殆ど負傷者を出さずに敵兵を三百以上減らすことに成功した。
「素晴らしい策であった。おかげで村を救うことができた」
「いえ、素晴らしい兵があってこその結果です」
俺は跪いてリズリーさんに頭を下げる。
村は荒らされていたものの、まだ生きている者も大勢居た。
「兵士様、ありがとうございます!」
子供を抱いた女性が涙ながらに頭を下げる。
「無事でよかったです。ここはこれから戦場になる。ここから早く逃げた方がいい」
「はい!」
女性は何度も頭を下げた後、焦げた家に戻っていった。大切な物を持って逃げるのだろう。
「本隊への合流まで、救える村を救いつつ向かいましょう」
「分かった。お前なら無理もしないだろう。任せたぞ」
その後、二度同じように村を襲っている敵の中隊を潰し回る。既に千人程敵兵を葬ったであろう。
兵士達もこの成果に笑顔がこぼれている。
「ご報告です。再び村を潰し根城にしている敵部隊を発見しました。いかがなさいますか?」
斥候がこちらに尋ねる。
「少し、見て参ります」
俺はリズリーさんの横から離れ、村を見に行く。村は既に完全に壊滅していた。敵兵は千人程。
『この中突入して敵将を討てる?』
『ノー』
初めてのノーだ。人数が多いからか? そう考えるも、すぐ考えを改めた。敵兵の練度が先ほどよりも明らかに高い。精鋭部隊だろうか?
周囲の見回りの数も多い上に、しっかりしている。
「どうされますか?」
シビル隊の兵士が俺に尋ねる。
「いや、駄目だな。止めておこう。今はまだ本番じゃない。ここで兵を減らすことはできない」
「確かに今までよりは陣形自体はしっかりしてますが、何箇所か隙があるように見えます。そこを突けば……」
「いや、あれは罠だ。行けば狩り取られる」
らしい。メーティスさんが言うには。ハルカ共和国にも優秀な将がいるようだ。
敵が掲げている旗には、『爆虎』と大きく書かれている。
「爆虎隊か。覚えておくか」
俺はそう呟くと、リズリーの元へ戻る。
「止めておきましょう。おそらく敵は精鋭です。この人数で立ち向かっても全滅の憂き目にあいます」
「仕方あるまい。勝ち戦なまま終えておくか」
「旗には爆虎隊と書いてありました。誰かご存じありませんか?」
俺の言葉に、一人の兵士が手を上げる。
「爆虎隊はウィルタイガーという大隊長が率いる隊ですね。前線で戦ったことがあります。まだ若いですが、スキルにより敵を爆散させる恐ろしい男です。帝国騎士団の人間も多く手にかけていたはずです」
「敵にも若き将が台頭しているということか。気をつけよう。幸い、もう日も暮れかけている。もう少しで本隊にも合流できる。おそらくぶつかるのは明日だろう」
リズリーさんは空を見て呟いた。
俺達は爆虎隊と戦うことも無く、本隊に合流した。
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