エスター
ベイルは会議が終わると、その足でそのままある家に向かった。
「エスター、お前には今回の戦争の総大将を務めて貰いたい」
玄関から顔を出した家の主はその言葉に顔を歪める。
「俺ですかい……。今、別仕事から帰ってきたところですよ。他にも適任は居ると思いますが」
疲れた顔で答えたのはエスター・コルク。ハルカ共和国が誇る『剣帝』である。
だが、その称号と裏腹に本人からは覇気が感じられない。年は四十ほど、ぼさぼさの黒髪を横分けにしており、無精ひげを指で撫でている。
顔は比較的整っているものの、とても一国の代表となる騎士には見えない男だった。
「この規模の戦争を任せられる者はほとんどおらん。お前なら、こうなることもある程度予想していたんじゃないか?」
「……あれも見つからなかったからな。こうなる可能性は考慮してたが……やりたくねえな。大将なんてガラじゃねえぜ」
「なに、お前さんなら精一杯務めてくれると信じておるよ。エス坊」
「もう四十だぜこっちは。いつまで坊やなんだ。で、爺さん、副将は誰が務める?」
「ヨハンじゃ」
「よりによってヨハンか……」
エスターは眉を顰める。
「奴は色々問題も多いが……奴の狂暴性は戦争では役に立つじゃろう」
「それならいいんだがなあ。まあ、このままじゃハルカも終わりですから、精々頑張りますよ」
「任せたぞ、エスター。既に第一陣は出陣している。第二陣を率いてお前もすぐに向かってくれ」
ベイルはそう伝えるとその場を去った。
「ああ……また大地が血で染まるな。仕方ねえけどよ」
エスターは頭を掻きながら、そうぼやいた。
一方、同時刻にハルカ共和国の文官がある男を訪れていた。
文官の顔からはどこか怯えが見える。
「ハハハ! 俺が副将か! お偉いさん方もよほど焦っていると見える! いいぜ、心配するな、受けてやるさ。戦争だ! 戦争! 殺しが正当化されるビッグイベント! ローデルの地を奴等の血で染めてやるぜ!」
男は両手を広げ高笑いを見せる。
この男の名は、ヨハン・パステル。
年は二十代後半。髪は左サイドを刈り上げており、そこには刺青が刻まれている。長い青髪を右側に流している。右目には縦に傷が入っている。見た目は騎士とは程遠く、野盗の頭領と言われた方が信じられるだろう。
「あ、ありがとうございます!」
文官は、頭を下げるとすぐさま立ち去る。
「フフフ、楽しみだ」
ヨハンはそう言うと、動き始めた。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!
評価ボタンはモチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!





