ヒーローだったんだね
目を覚ますと、そこには木製の天井があった。勝手知ったる借り家の天井である。
「目を覚ましたか、シビル」
ベッドから体を起こすと、横にはシャロンが座っていた。
「ここに居るってことは、勝ったってことかな?」
「ああ。シビルの一撃で、あの巨大百足は仕留められた。後は白虎族の援護もあって無事に勝利した。だが、犠牲は大きかったな」
今回は何十人も兵士が犠牲になってしまった。俺が戦わせたのだ。
「ああ。だが、規模を考えると被害は抑えられた方だろう。皆に感謝をしないとな」
俺は無茶な命令に従って戦ってくれた部下達に感謝する。
「集会所に隠れていた村人は全員無事だった。今は復興のために皆働いている。村の建物は殆ど半壊だ」
まあ無事でよかった。
「起きたんだ~。良かったよ~」
ダイヤが扉を開けながら言う。
「心配かけた。すまん」
「別にいいよ。それにしても、シビルが倒したんだって? 全く戦えないって言ってたけど、もう一流の射手だね」
あの時は、なぜあんな威力が出たのか俺も分からなかった。だが、意識を手放すほどの魔力をランドールに吸われたのは確かだろう。
「一射することに気絶していては世話がない。だからあまり無理をするな」
シャロンからお小言を頂く。
「そう言えば、君にお客さんだよシビル」
ダイヤが空いた扉の先に目を向けると、よく見た紫髪、ルイズの姿があった。いつもの太々しい顔はなりをひそめ、どこか目が輝いている気がする。気のせいか?
ルイズはこちらに近づいて来るやいなや、見事なジャンピング土下座を決めた。それは綺麗な土下座だった。
「シビル様、大変申し訳ございませんでした! 今回の警護のサボりから、今までの態度も全て謝罪いたします!」
見事な変わり身である。誰かに洗脳でもされたのだろうか?
『ルイズは洗脳されている?』
『ノー』
当たり前だけど違うか。
「最後の一撃、しかとこの目で見ました。エーデルスコーピオンを一撃で仕留めるその凄さ。お見事でした。シャロンお姉様、シビル様、両者の素晴らしさ、感服いたしました!」
ルイズが食い気味でこちらの手を掴む。目が完全に狂信者の目つきだ。怖い。
「あ、ありがとう。だが、お前のした行為は決して許される事ではない」
「はい。どんな罰も受けるつもりです」
「第三部隊はしばらく誰よりも復興を手伝え。その後もシビル隊として多くの者を救え。それで失った者達が帰ってくるわけではないが……俺達はそれでしか救われないんだ」
「は、はい! 全力で働かせて頂きます!」
「それにしてもお前、色んな場所魔蟲に食らいつかれてなかった? 良く死ななかったな」
「私のスキルで、魔蟲を飛ばしました。おかげで一命はとりとめました! では早速働いてまいります!」
飛ばした? どういうことだ? こいつ、俺にスキル詐称してやがったな。また聞かなくては。
ルイズは見事な敬礼を決めた後、外へ旅立っていった。
「甘いんじゃないか?」
「俺もそう思うよ。だけど、俺が今回の襲撃を読めていれば、と思うとルイズばかり責める気にならなくてな」
俺はそう言って立ち上がる。俺にもできることはあるだろう。しばらくは復興作業に勤しむことになりそうだ。
家を出たところ、この間助けたお母さんと、その娘である少女に会う。
「お兄ちゃん!」
少女はこちらを見ると笑顔で駆け寄って来る。
「こ、この度は……私達のために本当にありがとうございます! 娘に聞きました……本当、なんとお礼を言えばよいか」
お母さんは、土下座しないばかりに頭を下げる。
「いえいえ、村人を助けるのも、領主の務めですから」
「お兄ちゃん、本当にヒーローだったんだね!」
少女が屈託なく笑う。本当は英雄でも何でもないが……俺は皆を守れる存在、きっと英雄になりたいんだろう。
「勿論!」
そう言って、少女の頭を撫でる。
もっと強くなれば……本当になれるんだろうか。
俺はふとそう思った。
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