静かにしてくれ
「ナメルナ……!」
巨大百足が呟くと、残った五本の腕が更に太く、硬く膨らみ始めた。
そして放たれた一撃は先ほどよりも更に硬く重い一撃だった。だが、シャロンはそれを真っ向から受け止める。そして、攻撃を流しながら、その大剣で腕にカウンターを決める。
金属同士が当たる綺麗な音が響く。
大きな傷が入ったものの、腕を斬ることはできなかった。先ほどよりやはり硬度は相当上がっているようだ。
「オマエタチモ……ニゲタヤツラモ……ミンナクラッテヤル」
攻撃を受けても切断されなかったことで、自信を取り戻したようだ。
巨大百足は大きく、充血した目で俺を見据えると、腕のドリルがこちらに襲い掛かる。
「お前の相手は私だ」
シャロンは一足飛びで俺の目の前に移動すると、ドリルでの一撃を盾で受け止める。
このままじゃ足手纏いだ。
目の前ではシャロンが敵の連撃をさばきながら一撃を加えている。だが、なかなか決定打とはいかないようだ。
段々シャロンの魔力が少なくなっているのを感じる。天使の唄は魔力を多く使うのだろう。
シャロンは自分の能力を精一杯使って俺を守ってくれている。
なら、俺がすべきことはなんだ? 巨大百足を倒すことだろう。俺は冷静に、そして覚悟を決める。
『やっぱりこのままじゃきついぜ相棒。いったん撤退を』
「撤退はできない。俺は皆を守る正義の味方になりたくて、この軍に入ったんだ。俺達の背後には守るべき村人が居る。面倒なものなんだよ、正義の味方なんて。だからこそ……負けられないんだ」
俺はただ巨大百足を見据える。もう目を離さない。
「ナニヲイッテイル! ツイニクルッタカ?」
俺の独白を聞き、巨大百足が嘲りの声をあげる。周囲の討ち漏らした魔蟲が何匹もこちらへ向かっている。
『おい、逃げろ、相棒! 流石に厳しいぞ! 死んだら元も子もねえ!』
シャロンは必死で巨大百足を止めているので、そこまで手が回らない。まずい。
だが、そこに現れる姿があった。ルイズである。ルイズは必死の形相で一匹の魔蟲の頭を槍で貫いた。
それでもまだ多くの魔蟲が俺に迫ってきている。ルイズの実力じゃ全てを倒しきれないのだ。
「シビル!」
シャロンの悲痛な声が響く。
その時、ルイズにより放たれた槍が俺に襲い掛かっていた魔蟲の頭部を貫く。
「ギュイイ!」
それでも、まだ残った二匹の魔蟲が俺目掛けて襲い掛かる。
既にルイズも武器を失った。俺は死ぬ覚悟を決め矢を番える。
だが、武器を失ったルイズは震えながらも、魔蟲の元へ走る。
「ルイズ、何を……⁉」
「絶対に……隊長の元へは絶対に行かせない!」
そう叫んだルイズは両手を広げ魔蟲達の行く手をその手で阻む。魔蟲の鋭い牙が、爪がルイズに突き刺さる。
「ああああ!」
脇腹を食い破られたルイズの悲鳴が響く。痛みに耐え、魔蟲にしがみつく。
「食べれるものなら、食べてみなさいよ! ただし、代金は高くつくわよ」
「お前の覚悟、確かに受け取った!」
「ここで……ここで体を張らないと、私はあの少女に、彼等に顔向けが出来ない! どうか隊長、奴を討ち取って!」
俺は動かずにただ巨大百足を見据える。巨大百足の腹部、ただ一点を。
脳内では騒ぐランドールの声が響く。
うるさいなあ、静かにしてくれ……。もう少し、もう少しなんだ……やつしか見えない。徐々に風景も、周りの敵も、仲間も、全て……。
音も、色も、全てを失った。また俺の目の前にいるのは、奴だけ。
ああ。今なら分かる。必ず当たる。俺も、魔力も、全てをくれてやる。だから、さよならだ。
鼻から血が流れ、地面を赤く染める。
「付与矢・【龍】」
俺は俺の残りの魔力を全て吸い取った矢を放つ。放たれた矢は、紫色の線を描き、巨大百足の腹部を大きく貫いた。
「ギュ……」
巨大百足は口から血を吐くとそのまま地面に落ちる。そのままぴくりとも動かない。
「仕留めた……か?」
俺は魔力の使い過ぎで痛む頭を押さえ、地面に倒れ込む。これでまだ動いたら俺の負けだろう。俺はそのまま意識を手放した。
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