まずいかもな
「させるか。付与矢・【龍】!」
紫色の禍々しい魔力を纏った矢が巨大百足の腹部目掛けて放たれる。だが、直前で腕に弾かれる。
腕に傷はついたものの、どれだけダメージが入ったかさっぱりわからない。
『腹部に付与矢・【龍】を当てれば倒せる?』
『イエス』
本当か? 疑問しかないぞ。何発当てればいいんだ。
「だけど……やるしかないんだよねえ」
俺は矢を放ち援護する。龍じゃないと殆どダメージが通らない。これがA級。
シャロンは盾を巧みに使い、器用に攻撃をさばいている。だが、腕に振り下ろした一撃もやはり決定打には程遠い。
まだか……? 俺は助けを求めるように周囲を見渡す。
俺は視界の端に、煙を捕らえる。煙は複数の場所で焚いているのか集会所を瞬く間に包んでいく。
「ごめん、遅れた!」
ダイヤが後ろから現れる。
煙に包まれた魔蟲達は倒れることはなくとも、確実に動きが鈍くなっていることを感じる。
「いや、助かる」
正直、他の持ち場もかなり厳しそうだ。何と言っても数が違いすぎる。五倍である。
「ギャアア!」
今も、一人の兵士が蟲に肩を噛みつかれ悲鳴を上げている。
俺はすぐさま矢を番えると、魔蟲の頭を撃ち抜く。
「引け!」
「た、隊長……ありがとうございます!」
肩を引き摺りながら、兵士の一人がなんとか逃げる。
「コノテイドデ……トマルトオモウカ?」
巨大百足さんは不快そうにこちらを睨んでいる。
「ダイヤ、周りの援護を頼む。このままじゃ長くは持たん」
「わ、分かったよ!」
ダイヤはそう言うと、集会所近くまで走り地面に手をつく。
すると石でできた巨大な壁が生まれ集会所の大穴を埋める。
「これでしばらく時間が稼げると思う」
ダイヤは地面から土で出来た巨大な棘を生み出し、魔蟲を貫く。
皆、頑張っている。俺達もなんとかこの巨大百足を仕留めないと。
全く倒せる気配のない巨大百足を見て俺は小さく汗をかいた。
シビルの見えない集会所の裏側でも兵士達は必死で戦っていた。
「お前達、固まれ! 決して囲まれるな! 背中合わせで戦うんだ!」
各部隊の指揮官が叫ぶ。魔蟲達の強さは兵士達より少し弱い程度である。だが、数は五倍。周囲はお婆さん特製のくん煙剤が焚かれ、魔蟲の動きは鈍い。
だがそれだけで勝てる程甘くはない。
「ああああ!」
右わき腹を食いちぎられた兵士が叫ぶ。兵士は気絶しそうな痛みに耐えながら、剣を魔蟲の頭部に振り下ろす。
「はあっ……。うちが苦戦するのは久しぶりだな……。最近は万全の準備で挑むことが多かったからな」
「ここで負けたら、隊長の不敗に傷がついちまうな」
「全くだぜ」
兵士達は軽口を叩きあうも、目は全く笑っていない。ここが死地であることを知っているからだ。
「まずいかもな……」
兵士の一人は誰に言う訳もなくそう呟いた。
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