帝都にて
ローデル帝国の帝都ブルーディンのとあるレストランで二人の男女が食事をとっていた。大きな個室は一流の調度品に溢れ、食材から、食器も平民では一生触れることもできないような高級品で揃っていた。
銀の長髪後ろに括っている男がナイフで肉を切り、口に入れる。
年齢は三十代。面長な顔だちで、気の強そうな吊り目はどこか冷たさを感じさせる。腰には禍々しい大剣が指していることから剣士であることが分かる。
「ガルガンディーはしっかりと動いているようだな。おかげで帝都もどこか騒がしい」
男が笑う。
「北部はガルガンディーの担当なんだから、動いてもらわないと困るんじゃが」
返事をしたのは、ピンク色の髪を二つに結んでいる少女だ。年は十二歳程度にしか見えない。人形のような整った容姿も彼女の目を引く理由になるが、もう一つ大きな特徴がある。
その細い体を包むように、大きな百足が彼女の周囲を囲んでいる。
少女は、肉を切ると百足に差し出す。百足は上機嫌そうに小さく鳴くと肉を食べる。
異常な光景である。
少女の名前はパピオン・バーチ。セラフの六翼の第四翼を担う魔蟲使いである。
その可愛らしい容姿とは裏腹にかつて住んでいた小国を、その配下である魔蟲を使い一夜にして滅ぼした一級戦犯だ。
「パピオン。食事中に蟲を連れてくるな。食欲が失せる」
男が呆れるように言う。
「いやじゃ。こんなに可愛いのに何を言っておる?」
パピオンは心底何を言っているか分からないと言わんばかりの表情をしている。
「……まあいい。パピオン、お前の方の首尾はどうだ?」
「そりゃあ勿論順調じゃよ。そろそろ森に住む白虎族も死ぬ頃だし楽しみじゃ。あの規模の森全体が感染したらもう止まらんぞ。どんどん広まっていき、最後はこの国も、大陸も飲み込むはずじゃ」
と楽しそうに言う。
「だが、呪樹病は過去に克服された病。病気がばれた場合、早期対策される可能性もある。その場合、パンクハット領すら滅ぼせないだろう?」
「ふふ。大丈夫じゃ。私が大樹に寄生させたのは樹病蟲だけじゃない。もし大樹が伐られて燃やされたとしても、その時はあの子が孵化する。どちらにしても血の海になることに変わりはなかろう。ああ……楽しみじゃのう! あの子が大量の人を食べて、立派に育ってくれたら! 考えるだけで興奮してきるわい」
パピオンは顔を真っ赤にしながら恍惚の表情を浮かべていた。
その時、個室の扉が開く。給仕の女性がやってきたのだ。
「飲み物のお代わりはいかがで……⁉」
女性は先ほどまで存在していなかった巨大百足に大きく息を呑む。
「ば、化物……!」
女性が後ろをむいて逃げようとした瞬間、巨大百足が矢のように飛び掛かり女性の腸を食い破った。
女性は腹に大穴があき、そこから巨大な百足が内臓を啜っている。
その様子を見て、男は僅かに顔を歪めながらコーヒーを飲む。
物音に驚いたのか、下の階からかけあがって来る音が響く。現れたのはこの店の警備をしている男だ。その動きから元々は熟練の冒険者であることが分かる。
「な、なんだ! この化物は! いったい……お前達か?」
男は剣を抜き、百足と二人を警戒する。男は決して油断をしていなかった。むしろ最大限に警戒していたと言ってもいいだろう。
だが、次の瞬間男の首は刎ね飛ばされ宙を舞った。
「?」
男は自分に何が起こったのか、誰にやられたのかすら理解せずにこの世を去ることになった。
「おおー、流石ネイル! 素晴らしい!」
パピオンは笑顔で手を叩く。
「お前……蟲を飼うのはいいが少しは躾けろ。おかげで血の海だ」
警備の男を殺したこの男の名はネイル・バラクーダ。
セラフの六翼の第二翼を担う剣士。元帝国騎士団第二軍団長の肩書を持つ男だ。帝国において最悪の裏切者と呼ばれている。
先代帝国騎士団第四軍団長を殺し、姿を消したお尋ね者だ。
帝国はネイルの首に三億Gという懸賞金を付けている。だが、その首を狙う者は現在では少ない。それは彼の首を狙ったハンター達が皆二度と帰ってくることが無かったことが大きい。
「すまんのう! やっぱり人の肉じゃないと我慢できなかったみたいじゃ!」
「はあ……。まあいい。そろそろ騒ぎになる。出るぞ」
ネイルはテーブルに金を置くと立ち上がる。
「はいはい! おいで」
パピオンは窓を開けると大声をあげる。すると、窓の先に大きな羽を持つ甲殻類の蟲が突如姿を現す。
全長は十メートルを超える巨大さで、口元には大きな牙があり、人間など一口でかみ砕くだろう。
「早く行こうかのう。一応見えないように擬態させておるが、分かる人は分かるからのう」
パピオンとネイルは巨大蟲の上に乗ると、帝都から消えていった。
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