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責任

 しばらく沈黙が走る。

 周りの白虎族の者も何が正しいのか分からないのか、ただロブの言葉を待った。

 ロブは目を見開くと、思い切り拳を振り下ろした。

 その拳はライナスでは無く、地面を砕く。


「生意気言いやがって……! 畜生。ライナス、お前如きで責任なんて取れるかよ」


「この命にかえて――」


「だから、族長として俺が取る。俺がな……。大樹殺しという大罪は俺が背負おう」


 ロブは優しい笑顔で、ライナスの頭を撫でる。


「族長……!」


「薄々感じちゃあいたんだ。もう大樹様は長くないかもしれないとはな。俺の決断が遅れたせいで、皆に苦痛を伴わせたな。すまない」


 ロブが白虎族の皆に頭を下げる。


「そんな! 族長はなにも悪くないです! 皆、大樹様を愛する気持ちは同じですから。皆、大樹様と共になら死んでもいいと考えているはずです」


「知ってるさ。だからこそ、俺が罪を背負う。大樹を殺してでも、皆を生かそう。悪いなライナス。お前は優しい子だ。悩んだだろう」


「俺は……ただレイに生きて欲しかっただけです」


「そうか。シビル君。医者まで連れて来てくれてありがとう。謝って許される事では無いが、謝罪させて欲しい。大変申し訳ない」


 ロブはそう言って、頭を下げた。


「いえいえ、ご決断ありがとうございます。おかげで皆の命が救われました」


 最悪、白虎族との戦闘となればシビル隊だけでは厳しかっただろう。皆弱っているとはいえ、純粋な戦闘種族は伊達ではない。


「病気にかかっている大樹と、木々の伐採と焼却は俺達にやらせてくれないか?」


「ではロブさん達にお任せします」


「ありがとう」


 俺達は治療のため、ライナスの家に向かった。


「帰ったぞ、レイ!」


 ライナスは家の扉を開けると、奥へ向かう。奥には、布団に入ったレイ君の姿があった。頬がこけており既に体調はとても悪そうだ。


「こんにちは……」


 立ち上がろうとするが、既に立ち上がれないくらい悪いらしい。


「立ち上がらなくていい! シビルがお医者さんを呼んできた。もう、大丈夫だ」


 ライナスがレイの手を握りながら言う。


「これはだいぶん重症じゃな……」


「レイは、大丈夫なんですか!?」


 ライナスが不安そうに尋ねる。


「完治は時間がかかるじゃろうが、大丈夫じゃ。だが、後一週間遅かったら分からんかった。患者は皆この大樹から離れた方が良かろう。薬を」


 お爺さんは持ってきた木箱から白い丸薬を取り出すと、レイ君の口に入れる。レイ君はそれを水で流し込む。


「これで、もう大丈夫だぞレイ! その病気もすぐ治る!」


「本当? じゃあ……一緒に狩りにも行ける?」


「ああ……行こう。お兄ちゃんが、教えてやる。これからはいつだって……いつだって行けるんだ」


 ライナスはレイ君の手を握りながら、涙を流す。それを見たレイ君も静かに嗚咽を漏らす。

 きっとレイ君も自分が危ないことには気付いていたのだろう。部屋には嗚咽の音だけが響いていた。


「犠牲は大きいかもしれないけど、白虎族も、村も皆救われた。本当に良かった」


 俺は安堵の溜息を吐いた。

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