決断を
白虎族の村は前回より更に活気がなかった。病気が蔓延しているためなのか、鬱々とした雰囲気が漂っている。
村の中にもほとんど人が居ない。どうやらかなりまずいらしい。村の広場には少しやつれた族長であるロブが狩りの準備をしていた。
「おい、ライナス。お前何をして……動けるお前が狩りをしないと……お前なぜそいつを!」
ロブがライナスの横に居る俺を睨みつける。その声を聞いて、まだ動ける者達が集まり始めた。
「ライナス、どういうことだ? お前は白虎族の誇りを失ったのか?」
ロブは静かに、だが怒気を持ってライナスを睨みつける。
「……」
「お前が昔から白虎族のために動いてくれていたことは知っている。そんなお前が大樹様の大切さを知らんわけもあるまい?」
「族長、すみません。どれだけ大樹様に俺達が助けられたのかも、大切なのかも知ってます。だ、だけど……俺はレイに生きていて欲しいんです。まだ八歳なんです……。レイの人生はこれからです。どうか、皆のために、森を……大樹を捨てる決断を!」
その瞬間、驚くべき速度でロブがライナスに飛び掛かる。首を掴まれたライナスはそのまま地面に叩き付けられる。
「ガハッ!」
その首にはナイフがあてられる。その動きはとても病人のものとは思えず、ロブの強さが垣間見えた。
「ライナス……おめえだけが辛いと思ってんのか? 皆大切な家族が居るんだよ。俺にだってな。だからって、命惜しさに大恩のある大樹様を裏切って良いと思ってんのか?」
冷めた、低い声だった。
だが、ライナスも退くことはない。ナイフをその左手で握り締め首から無理やり離し上半身を起こす。その手は自らの血で真っ赤に染まっていた。
「大樹様も病気にかかってるんだ! このままじゃ大樹様もいずれお亡くなりになる。既に加護が失われていることは族長も気付いているでしょう。大樹様だって自分の病気で、森を、我々を殺したくはないはずだ! 大樹様に滅びる責任を押し付けるより、俺達が、大樹様を殺す責任を背負うべきではないのか!」
ライナスは叫んだ。
「ぐっ……! き、詭弁だ! そもそもそいつらの言葉が本当かすら分からないだろう!」
「本当じゃよ」
二人の論争に入り込んだのは、王都の医者であるお爺さんである。
「これは我々の話だ。悪いが、ご老人は引っ込んでてもらおうか」
「わしは医者じゃ。大樹がかかっておるのは呪樹病という。樹病蟲という虫が木々に寄生し、その木が病気をばらまく。この伝染力は凄まじく、すぐに君達だけの問題だけでは無くなるだろう」
それを聞いたロブからはほんの少しだけ迷いが感じられた。
「ロブさん。あなた方にこんな辛いことをお願いするのは誠に申し訳ないとは思っています。ですが、この大樹をむしばむ病気である呪樹病はこのままほおっておけば、この森全てを蝕み、村を、ひいては国を蝕む大病となります。 どうか種族の、国の未来のために、大樹と別れる決断をお願いします!」
俺は頭を下げる。
「今まで世話になった大樹を伐ることがどれだけ恥知らずなのかも分かってます。恥も、罪も全て俺が背負います。 どうか、どうか……! 大樹を、森と別れる決断を!」
ライナスは両手でロブの肩を掴み、はっきりと告げた。
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