覚悟を
「僕はここに来るの初めてだよ」
「もしかしたら戦闘になるかもしれないんだから、少しは気を引き締めないか」
森を見たダイヤの呑気な一言を、シャロンがたしなめる。
「ライナス!」
俺は森に向かって叫ぶも、返事はない。
「ライナス、医者を連れてきた。この森を覆う病は呪樹病というんだ! 薬も持ってきた。だから速く弟さんの元へ――」
「要らん! はやく失せろ!」
森からライナスの声が響く。
「手遅れになる前に行かないと――」
「要らんと言っているだろう!」
ライナスが木の枝から俺にとびかかるように飛び降りてきた。俺は地面に押し倒される。
「ぐっ!」
「シビル!」
シャロンは剣を抜く。
「シャロン、大丈夫だ。俺達は戦いに来た訳じゃない。そうだろう、ライナス」
俺の言葉を聞き、シャロンは渋々と剣を収める。
「……戦いになるかどうかはお前達次第だ。おとなしく帰れ。今は皆も余裕がない。侵入者に温情をかける余裕がな。それは俺もだ」
ライナスはどこか辛そうな顔をしていた。心情的にも、身体的に辛そうだ。どうやらライナスも遂に呪樹病にかかってしまったようだ。
「弟さんと狩りをするっていってたじゃないか。薬を……」
「薬など今更……。薬を飲んでも根本的解決にはならないんだろう? 大樹様と居る限りは」
「そうだ」
「俺達は大樹と共に死ぬ。納得もしている。もう放っておいてくれ」
そう言ったライナスの顔は決して納得している顔ではない。辛さで歪んだ顔だった。
「まだ! 弟さんは救えるんだ! お前が俺の手を取れば!」
「俺だってレイは助けたい! それこそ俺の命を捨てて助けられるなら喜んで捨てる。だが、森を、大樹を愛している皆に…弟を助けたいから森や大樹を捨ててくれなんて言えない…言えるわけねえだろうが!」
ライナスは俺の胸倉を掴み、叫ぶ。
馬鹿野郎……。
俺はライナスの左手を掴むと、左足で地面を蹴り体ごとひっくり返しライナスに馬乗りになる。
「俺は白虎族の人たちがどれだけ大樹や森を愛しているか、完全には理解してないかもしれない。 だけど…弟さんのために命を捨てる覚悟があるなら! そのために皆に頭下げてでも、プライドを捨ててでも救おうと動けよ! 俺も一緒にいくらでも捨ててやる! 本当に大事なものが何か、ちゃんと考えろ!」
「……俺はレイを救いたい。お前なら、救えるのか?」
「救える。そのために動いたんだ。ライナス……お前も覚悟を決めろ」
「……ああ。俺も覚悟を決めよう。一番大切なものは何か分かっていたはずなのに……立ち向かうのが怖かったんだ。裏切り者の汚名も甘んじて受け入れよう」
俺はライナスの上からどくと、手を伸ばす。
ライナスは笑顔で手を取った。覚悟を決めた顔だった。
「行こうか。皆を救うために」
俺達は再び白虎族の村へ向かった。
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