また来るぞ
◇
俺は自分の失敗を悟っていた。彼等の大樹への思いを計り違えていたのだ。
俺にとって一番大切な物は仲間の命で、彼等もそうだと思っていた。
だが、彼等にとっては大樹への思いも同じくらい、それ以上に大きかったのだ。
俺は家に戻ると、シャロンとダイヤに森での経緯と帝都に医者を探しに行くことを告げる。
「森に行っていたのは知っていたが……そんなことになっていたとは。もしその病気が本当なら大変なことになるぞ。この村も他人事ではない」
シャロンは驚いたように言う。
「ああ。なんとか説得するしかない。医者じゃない俺の言葉じゃ説得力もない。それに、時間も無い。早く医者を連れてこないと、説得できても死人が出てしまう」
「最悪戦闘なのかな? 勝てるとは思えないけど」
ぼそっと、ダイヤが言う。
「戦うつもりは無い。そのために動くんだからな」
俺は二人にそう言ったものの、どうしていいか測りかねていた。
翌日、俺は帝都に向かう前に、もう一度森に顔を出した。
「ライナス、話がしたい。出て来てくれないか?」
森へ話しかけるのも、もう慣れたものだ。
「……話すことなどもう無いだろう。去れ」
森からライナスの声が返ってくる。姿は見えない。
「昨日はすまなかったな。俺を呼んだ君も責められてんじゃないか?」
「別に気にしていない。もう来るな。お前の発言に怒っている者は多い」
「そうはいかない。このままじゃ、皆……君の弟も死んでしまう。君達にとって、どれほど大事か俺は正確に理解していなかった。申し訳ない。だが、大樹も今病気にかかってるんだ。それは他の木々にも、獣人にも移る。君達が大樹を大切に思っているように、大樹も君達を大切に思っているんじゃないのか? 大樹も君達に移したいとは思っていないはずだ!」
「五月蠅い! お前に何が分かる! とっとと失せろ!」
「……また来る。俺はまた来るぞ! 必ずな!」
俺は感情的に叫ぶと、森を去り帝都へ向かった。
◇
ライナスは迷っていた。
今のところの根拠はシビルのスキルのみ。だが、言われてみれば思い当たる節があるのだ。
なぜか今年だけは大樹の実が実らない。いつも魔力により輝いている大樹もここ数か月元気がない。仲間達が体調不良を訴え始めた頃と重なる。
この村はこのままじゃ長くない。それは気付いているのだ。
「お兄ちゃん、どうしたの? 怖い顔して」
ふらふらと弟であるレイが現れる。
「なんでもないさ。食べれるか?」
「うん。ごめんね、お兄ちゃん。僕も早く狩りに行けるようになったらいいんだけど」
咳き込みながら、申し訳なさそうに謝るレイ。
「なに。すぐに良くなるさ。ゆっくり休め」
顔色は悪くなる一方だ。このままではレイはどれだけ持つのか、とライナスは考えてしまう。
シビルの言う通り動けばレイは助かるのだろうか、と考えてしまう。
だがすぐにその考えを打ち消す。
「なんて罰当たりなことを考えるんだ、俺は……」
大樹様を裏切ってでも生きるなんて白虎族失格だ、と自分を戒める。
「なんか今日のお兄ちゃん暗いね? シビルさんと喧嘩した? 喧嘩したなら、仲直りしないと」
「……いや、違うんだ。喧嘩なんてしてないさ。喧嘩なんてな」
「僕のことは心配しないで! 良くなってる気がするんだ。だから、そんな顔をしないで?」
レイが心配そうにライナスの顔をのぞき込む。
ライナスはレイに心配されるほど、顔に出ていたことを恥じる。
「ただの考え事だ! 少し出かけてくる。布団に入って休むんだぞ」
ライナスは家を出て壁にのしかかるように座ると、死んだような顔で項垂れた。
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