病
◇
「おお、送ってくれたのか。ありがとよ、ライナス。別れの挨拶ができなかったことが悔やまれるな」
ロブは頭を掻きながら、ライナスに感謝を告げる。
「別に構いませんよ。ですが族長、無理は止めて下さい。貴方はこの村でも重症なんですから」
「なに、歓迎するなら俺が獲ったボアの肉が必要だろう! ハハッ……ゲホッ!」
といって豪快そうに笑った後に、大きく咳き込んだ。口元を押さえた掌は真っ赤に染まっていた。
「族長!」
ライナスが大声を上げる。
「最近の風邪ってのは、思ったより酷くなるもんだな!」
とロブは笑っているが、ライナスの顔は暗い。明らかにただの風邪では無いからだ。
「休んでいてください。俺が族長の分まで獲って来るんで」
「生意気いうようになったじゃねえか」
と言いつつも、嬉しそうだ。ライナスは狩りのために村を出た。
◇
俺は村に戻った後も、白虎族の病気? が心配だった。家の中で一人うんうんと唸る。
一族皆が同じ病気にかかることがあるのだろうか?
何か他に理由がある気がしてならなかった。
『森の獣人達の病気は、伝染病?』
『イエス』
やはり、伝染しているのか。
『その病気は人にも移る?』
『イエス』
そもそも何が原因なんだ? なぜ白虎族だけが病魔に襲われたのか。
『食べ物が原因?』
『ノー』
『種族が原因?』
『ノー』
『場所が原因?』
『イエス』
場所? 森が原因ということか?
病気に詳しくないからよく分からんな。
『木から移った?』
『イエス』
嘘だろう!? 木から病気になったって……。原因の木がもし大樹だったりしたら……。
けどまさか大樹が原因ってことはないだろう。大樹は彼等をずっと守ってきて……。そんな大樹が原因なんて、そんな報われないことがある訳が……。
俺は確認するのが怖かった。
だが、確認しないわけにもいかない。
『彼等の守り神たる大樹から移った?』
『イエス』
「な……」
俺は知りたくなかった最低の事実に、口から小さいうめき声が漏れた。
俺は木が原因なら、その木を切ればよいと思っていた。だが、あの大樹であるとなるとそうはいかない。
彼は大樹を尊敬し、崇めていた。
『この病気は木間でも感染する?』
『イエス』
『全ての木は既に感染している?』
『ノー』
『大樹から他の木々に感染している?』
『イエス』
やはり大樹から他の木々に、ひいては白虎族の人達に移っているらしい。
だが、これは最悪の答えである。
既に大樹を中心とした百近い木が感染しているらしい。これからもどんどん増えるだろう。
『木を伐採して燃やすことでこれ以上の感染は防げる?』
『イエス』
『この病気は自然治癒可能?』
『ノー』
これはノーなのか。これはもはや白虎族だけの問題ではない。あの巨大な森の木々が全て感染した場合、ローデル帝国中に広がってもおかしくない。
どんどん悪い想像だけが広がっていく。
まずい……。
『この病気は最終的には亡くなる?』
『イエス』
『白虎族の人達で最も重症な人は一ヶ月以上持つ?』
『ノー』
ノーか。あまり猶予も無さそうだ。
『三週間以上持つ?』
『イエス』
三週間か……。
『木々の治療は可能?』
『ノー』
既に侵された木々は治せないのか。
『大樹を残したまま、病気の感染を防ぐ方法はある?』
『ノー』
大樹を救うことができれば説得も容易だと考えていたが、やはり厳しいようだ。人間用の薬は考えていても、木々の薬までは用意できないのか。
あまりゆっくりしている時間はない。俺はその後、何が正解か考え続けた。
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