付与矢
村の外には、百人の兵士が訓練に明け暮れている。
「隊長、お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
と皆手を止めて挨拶をしてくれる。
「お疲れ様。気にせず訓練を続けてくれ」
俺は皆にそう伝えた後、いつものように矢を構える。
落ち着いて、無駄のない、綺麗な動作を心掛け矢を放つ。放たれた矢は見事に的の中央に突き刺さる。
弓の訓練は毎日欠かさずに行っている。今ではランドールの補助なしでも当てることが可能になってきた。
『いいねえ。けど俺の補助が要らなくなったようで悲しいぜ』
ランドールが軽口を叩く。
『なに。魔法弓じゃないと、当たらない時も多いからな。これからもお世話になる予定だ』
『ありがとよ! そろそろ次のステップに行こうか? 魔法弓は、矢に属性を与えることができる物もある。知ってたか?』
『ああ。だが、今まで話に出たことが無いからできないんだと思ってたよ』
『俺様ほどの名弓ができない訳がねえだろう! 矢に属性を付与すると、俺が矢をコントロールできねえんだ。今までのノーコンシビルじゃ役に立たなかったから言ってないだけだ』
『ってことは、少しは俺のコントロールを信じてくれたってことか。嬉しいね』
『ちょっとだけだがな。まず矢の速度を上げる付与矢・【雷】。雷の如き速度で相手を撃ち抜く。最初は俺が矢に属性付与してやる。イメージを掴めばすぐできるはずだ。行くぞ』
俺は矢を生み出し構えると、矢に雷が纏われていくのを感じる。雷で矢を生み出すイメージだ。
次の瞬間、矢を放つと通常よりはるかに速い矢が的を綺麗に貫いた。
「速い!」
通常の弓より、倍近い速さだ。魔力の消費も通常より多いようだが、速射が必要な場面は多い。
『これが付与矢・【雷】だ。矢の速度を上げたい時に使うと良い。次は付与矢・【風】。風を纏わせることでより遠くの敵を狙うことができる。俺が矢の先をコントロールしてやれないから、当てることは難しいが、飛距離を伸ばせる。実際にやってみろ。遠くを狙えよ?』
ランドールに言われて、再び矢を構えると、矢に風が纏われていくのを感じる。
はるか遠くの遠方目掛けて矢を放つと、空を斬る音と共にはるか遠くまで飛んでいった。その飛距離を見て、部下達も驚いたような顔でこちらを見つめている。
「シビルさん、そんなに飛距離ありましたっけ?」
「鍛錬の成果だ」
と適当にごまかす。
「倍近く飛ぶな。だけど、これはコントロールが難しい」
『慣れだ、慣れ。凄腕の射手はどの戦場でも貴重だ。特に敵が見えないような位置から射貫けるような凄腕なら尚更な。【風】はマスターして損はねえぜ』
『了解!』
『良い返事だ。最後は付与矢・【龍】。魔力エネルギーを全て威力のみに特化させた属性付与だ。これで打ち抜いた敵は、矢でやられたようには見えないと言われている。シンプルだが、大物の魔物と戦う時には重宝するぜ。まず攻撃が通らねえと、勝負にならねえからよ。行こうか』
俺は三度矢を構えると、矢にどんどん魔力が吸い取られていくのを感じる。矢は禍々しい紫色の魔力を纏い始める。
矢が重い……。だが、その重さがこの一撃の重さを感じさせる。
俺が矢を離すと、分厚い魔法による光線のように矢が放たれた。光線は的を全て消し飛ばし、後ろの木を大きくぶち抜いて消し飛ばした。
「え……?」
俺が呆けたような声を出すと、周りの兵士達も倒れた木を見てざわついている。
「なんですか、今の? 魔法ですか隊長?」
「いやー、なんなんだろ? 魔法弓って凄いってことだ」
「なるほど?」
威力が凄いことは分かった。属性付与はまだまだ可能性を感じる。魔法を使えない俺でもできるのがありがたい。
その後も、しばらく三種類の属性について試した。【龍】は中々コントロールが効かず、綺麗にあてることが難しい。
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