何が目的だ?
ずぶ濡れで縄で縛り上げられたエンデが、俺やリズリーの前に現れる。その顔は悲壮感よりも、怒りが勝っていた。
「やってくれたな、小僧。伯爵を殺せばただじゃ済まんぞ。予め、山賊狩りの名目でそちらに来たことは伝えてある。うちの親族がなんというかな?」
「それはご心配なく。バルデン侯爵が保証人となってくれますので」
リズリーの言葉の後に、バルデン侯爵が現れる。年は四十後半くらいだろうか。横分けにした銀髪に、銀の髭が特徴である。細く、背が高いためほっそりとした印象を受けた。
「随分暴れたね、エンデ」
「くっ、バルデン。お前まで手を組んでいたとはな」
エンデはバルデン侯爵を睨みつける。
「手を組んだも何も、こちらに非がないことを証明してくれと言われただけだ。兵は一人すら出してはいない。寄子のためにそれくらいはするさ。面白いものを見せて貰ったよ。証言はしっかりしよう。ではな」
バルデン侯爵はそのまま馬に乗ると、部下と共に、去っていった。
「ちっ! で、リズリー、何が目的だ? 金か? 息子は生きているんだろうな?」
諦めたのか、エンデが交渉に入る。
「息子さんが生きたまま帰れるかはあなた次第だ。クロノスと、情報を寄越せ」
「クロノスを!? 冗談じゃない! あれはうちの主要都市だぞ! 渡せる訳がない」
「いやー、渡せる。クラントン家滅亡の危機だろう?」
「ふざけるな、小僧! 儂を今殺しても、お前の物にはならんわ。帝国が貰うだけよ!」
殺される覚悟ができているのか、吠えるエンデ。
「シビル」
「はい」
リズリーの言葉を聞き、俺はエンデの前に一枚の書類を出す。それを見たエンデがわなわなと震え始める。
「どこでこれを知った!」
「秘密です。あんた、愛妻家で有名らしいね。ラブラブで羨ましいねぇ」
俺が笑うと、エンデは怒りで鬼のような形相に変わる。
俺がエンデに見せたのは奴の不倫の情報である。諜報員の一人が、エンデが女と密会しているのを見たというので、メーティスで調べ上げた。すると驚くべき情報が手に入った。奴は愛妻家という肩書の裏で、愛人を作り、子供まで生ませていた。
貴族としてはよくある話だが、愛妻家として知られているため隠していたのだろう。
「あんたがうちの条件を呑まなかったら、この情報は全てあんたの奥さんに流すぜ。子供も、愛人の情報も全てな。どうなるかな? この情報を聞いた後でも、奥さんはあんたを庇ってくれるか確かめるかい?」
それを聞いたエンデは震えていた。よほどばれたくないらしい。愛人の子供は男だし、下手をしたら跡目争いすら起こるだろう。
「……む」
「え?」
「そちらの条件を呑むと言っているんだ!」
エンデは怒鳴る。俺はにっこりと笑い、リズリーの方を見る。
「ありがとう。クラントン伯爵。決断が早くて助かるよ。あんたと息子の解放は完全にクロノスを頂いてからになるからしばらくかかると思うが、許してくれ」
「分かっておるわ」
エンデは全てを諦めたような顔をして頷いた。
「おい、お前が今回の戦の軍略を練ったのか?」
エンデが俺に尋ねる。
「ああ」
「未来が読めるというのは本当らしいな」
「なんでもでは無いですよ」
「ちっ! 化物に手を出してしまったようだな。あまり目立ちすぎないことだ。出る杭は打たれるぞ」
エンデの忠告に俺は唾をのむ。
「ご忠告感謝する」
エンデはその後、兵士に連れていかれた。
「今回はよくやってくれた、シビル。褒賞は約束しよう」
リズリーが俺の肩に手を置き、言う。
「ありがとうございます」
俺はそう言って連れていかれるエンデの姿を見送っていた。
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