釣り
フレイの号令と共に、第一軍千が、クラントン軍に襲い掛かる。シビル隊と違って、第一軍は血気盛んな者が多く感じる。隊長の影響だろうか。
その中でも、フレイは一回り大きな黒馬にまたがり、一騎でクラントン軍へ向かう。
「相変わらず、勇猛というか……」
リズリーは多少呆れを含んだ言葉を吐くも、止めはしない。フレイを信じているからだ。問題児である彼をそれでも仕官させるのはその強さ、一点である。
獄炎を纏った大矛を薙いた次の瞬間、血の雨が戦場に振る。
たった一振りで五人以上の敵の胴体が宙をなった。
「素晴らしい……!」
リズリーはその迫力に大きく息を呑んだ。基本的にA級以上の冒険者は人外と言われている。リズリーの目から見ても、フレイは人外の域に達していた。
彼が大矛を振るうたびに、敵の体が消し飛んだ。
「相変わらず、強いですなあ彼は」
総司令官であるエルビスがリズリーの横で感心するように言う。
「問題児だが……ただ強いのだ。その一点では、奴は信頼における」
「赤鬼、っていう異名の意味が分かります。あれは恐怖の対象になるでしょうね」
「ああ……。フレイのような強く、先陣を切る将は周りの士気を上げ、敵の士気を大きく下げる。ほら、人数差もあるのに、奮戦している」
「おかげで、敵の目を全て、フレイに注ぐことができます」
エルビスはそう言って、笑う。
「敵は一人だぞ! 何をやっている! 囲んで殺せ!」
クラントン軍の司令官の一人が命令を出す。
「そうはいっても……、どうやって近くまでいけば……」
フレイの迫力に、敵は皆、動きを止める。
「どけ。小僧共……。俺が出る」
そう言って、クラントン軍から出てきたのは全長二メートル近い、禿頭の大男である。その顔は傷だらけで、一目で将であることが分かる風貌であった。
「奴は……ドット。クラントン家の武を担う幹部ですな」
エルビスが呟く。
「早速、釣れたか」
リズリーは冷静に部下に指示を出す。ドットをエンデから離したかったのだ。この隙を逃す訳にはいかない。
ドットは巨大な棍棒を振り、フレイに襲い掛かる。
「はっは! 大物が釣れたな! 死ねよ!」
「若造が……!」
敵はほぼ全員、渡河を終え、こちらに襲い掛かってきている。
クラントン軍後方である動きがあった。
「あの臆病者がおらんではないか。リズリーも前方に出ておるし、奴を仕留めに行くか! カルロ隊出るぞ」
カルロ・クラントンはシビルが居ないことに苛立ちつつも、矛先をリズリーに向ける。
「行けません! エンデ様はこの軍は後方待機だとおっしゃっておりました!」
「五月蠅いな。敵が少数にも関わらず、押されている。このままじゃ中々終わらん! 行くぞ!」
カルロの号令と共に、カルロが率いる千人がリズリー目掛けて襲い掛かる。
エルビスは敵の攻めが厚くなったことを感じ、すぐさま指示を出す。
「第二軍も出ろ、総力戦だ」
エルビスの命と共に、こちらの残りの兵も敵に襲い掛かる。完全に乱戦になった。パンクハット軍は戦いつつも、少しずつ後退する。
「押しているぞ! このまま殺せえ!」
エンデの叫び声が聞こえる。
「あれはあのバカ息子か……。後方からわざわざ出てきたか。おめでたいことだ。俺自身が前に出てまで敵の目を前に向けたのだ。頼むぞ、シビルよ」
リズリーはそう呟くと、後方に下がる。
少しずつ、少しずつクラントン軍の攻撃がパンクハット軍に刺さっていく。
「思ったより、粘りおるわ。このままじゃ消耗も馬鹿にならん」
エンデは唇を噛んだ。
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