人として
翌日から遂に第一号店『ネオンビル雑貨店』が開店した。近隣の屋台にも、しっかりとネオンが挨拶をしていたらしく、特にいやがらせ等を受けることも無かった。
むしろ、ネオンちゃんは若いのに偉いねー、と甘いまであった。俺には別に優しくなかったけど。
初日の売り上げは中々良く一金貨を越えた。ネオンの商売トークは本物で、貴婦人やおっさんにまで様々な商品を売っていた。俺だけだと、二割も売れなかった自信がある。
俺は何していたのかというと、専ら裏方である。後ろで金の計算をしたり、お釣りを渡したり。やっぱり看板娘っていいよね。俺も好き。
「疲れたわー。けど、一日目は上々ね」
「お疲れ様。ネオン、売るのも上手かったんだな」
「当り前よ。これだけで生きていくつもりだったんだから」
と二の腕を叩きながら言う。働いていい汗をかいている人の顔だった。
「けど、あんまり販売で俺の出番はないなあ」
「仕入れ担当なんだから、裏方してくれたら十分。私一人で全てするのは無理なんだし。適材適所よ」
翌日からは、売上自体は初日よりも落ちたものの順調といえた。ちなみに販売価格は一つ一つメーティスさんに相談してベストな価格で販売している。おそらくだが、ネオンの値引きも考慮しての値付けな気がする。
ネオンが昼食を食べている間は、俺が店番をしている。この間はあまり売れないが、仕方ないだろう。
のんびりしていると、小柄な爺さんが店にやって来た。服はそこまで綺麗では無いが、どこか優しそうなお爺さんだ。よく見ると朝から様々な店を覗いていたお爺さんである。実は目利きのプロなのかもしれない。
うちの店でも、何かを探しているように商品を真剣な目で物色している。そしてこの間仕入れた指輪を見て大きく目を見開いた。
「やっと……見つけたわい」
爺さんはそう呟くと、頬に涙を垂らす。突然の出来事に、俺はパニックになる。
「どうしたんですか!?」
「いや……。ずっとこの指輪を探しておったんじゃ。これは冒険者になった娘に贈った物でなあ。ダンジョンで亡くなったと聞いて、せめて形見だけでもと思っておったんじゃ。お金はいつか必ず用意する! だが、今はこれだけしかないんじゃが、売ってくれんだろうか」
爺さんは、俺の手を掴んで懇願する。爺さんが家からかき集めた所持金は大銅貨や銅貨などの小銭ばかりで、全部合わせて30,000Gない程度、といったところだ。この商品は200,000Gもするためまだ売れていないが、悩んでいる人も多い人気商品でもあったりする。じきに売れるだろう。
うちは取り置きなんてしていない。商人としては、早めに用意してくれるようお願いすべきだろう。だが、俺の口は考えとは別の言葉を話していた。
「お金は足りてますよ。値付けが間違ってました。いやー、商人として失格だ。この商品は10,000Gだった、確か」
そう言って、爺さんから10,000Gぶんだけお金を貰うと指輪を手渡した。手渡されたお爺さんは涙を流し、頭を下げる。
「ありがとう、兄ちゃん! 本当にありがとう!」
爺さんは涙を流し喜び、残りの小銭を全て置いて去っていった。こちらが10,000Gで良いといくら言っても聞かなかったのだ。
「大切な金だろうに……」
大喜びで去っているお爺さんを見て呟くと、後ろから気配を感じる。
「大切な金よ、本当にね。それは私達も同じだけどね! シビル、あんた何やってるのよ!」
ネオンから雷が落ちた。200,000Gでおそらく売れたであろう商品を買値より安くで売ったのだ。怒るのも当然だろう。
「本当にすまなかった! あれは俺が全面的に悪い」
「本当にね。何格好つけて商人失格だ、とか言ってんのよ!」
そこまで聞いていたのか。なんとも恥ずかしい。
「返す言葉もない」
「あの爺さんが嘘ついてるなんて言わないわ。けど、親の形見で、とか言って値切ったりする奴等も多いのよ。いちいち値下げしてたらきりがないでしょう?」
うーん、そんな値切り方があるのか。人としてどうなんだ、と思わなくもないが。だが、おの爺さんは嘘をついているとは思えなかった。先ほどの話は嘘偽りのない真実だろう。
「今後は気を付けます。損額は、俺の給料から引いといてくれ」
俺の反省が伝わったのか、ネオンは怒りを収めてくれたようだ。
「別にそこまでしないわよ。それに……私だってあの人が本当のことを言ってたとは思うし。商人としては良くなかったけど、人としてはきっと正解だったわ」
ネオンは目を逸らしながら言う。突然のお褒めのお言葉。素晴らしい飴と鞭。損はしただろうが、俺は後悔していなかった。





