時は近い
クラントン家では軍議が行われていた。内容は勿論、パンクハット家との戦のことだ。
「ようやく食料が用意ができたか。おかげで数か月遅れが出たわ」
当主エンデ・クラントンが忌々しそうに言う。
「すみません。なぜか周囲の食料が買い占められておりまして」
「リズリーの仕業だろう。だが、時間があればこちらに勝てると思っておるなら愚かと言わざるを得んわ」
エンデは口から煙を吐く。
「こちらも時間があったため、一万しっかり兵の用意ができました」
「当り前だ。ガルシアの方はどうなっておる」
「二千で参加するという報告を受けております」
「なら余裕だ。奴等の左翼を思い切り狙わせろ」
ガルシア領は、パンクハット家の南側にある。南からパンクハット騎士団を狙わせる算段であった。
「はっ」
軍議中に、扉を叩く音がする。入ってきたのは次期当主であるカルロ・クラントンである。
「父さん、遂に出るのですね。私も勿論出ますよ! あのゴミ共を殺せる時が遂にきたんですから」
「ふう。……別に構わんが、後方待機しておけよ」
エンデの言葉に、カルロは顔を顰める。
「それではシビルと、あの女を殺せないではありませんか」
「心配せんでも、ちゃんと残しておいてやる。軍議中だ、静かに聞いてろ」
「……分かりました」
カルロがおとなしくなったところで、幹部が口を開く。
「こちらの手の者の情報ですが、四日後に、ケルル河付近の町の軍が軍事演習で離れると聞きました。その隙に向かうべきでは?」
「それはいい!」
他の幹部も賛成する。だが、それを一喝したのはエンデである。
「馬鹿者どもが。それは誘いだ。こちらが攻める用意をしていることくらいは漏れておる。わざわざ誘いを作るということは、何か隙ができる時期があるに違いあるまい。ここ二週間に何かないか」
エンデの意見を聞き、皆が思考を巡らせる。
「九日後に北のバルデン侯爵領で、賊討伐がありますな」
一人の幹部が思い出したかのように言う。
「賊の規模は?」
「三千です」
「多いな。そこに援軍を頼まれているのかもしれん」
「流石です、エンデ様。リズリーは千の騎兵を賊討伐に出すと言っておりました。それを狙われたくないがために、軍事演習でこちらを誘うとも」
この発言した男こそ、パンクハット家に入り込んでいるネズミである。この情報そのものが罠であるとも知らずに。
「やはりか!」
「その日が最も手薄だ。奴はそれまでに決着をつけたかったに違いあるまい。その日を狙う! 皆、準備をしろ。戦だ」
(小僧、小癪な手を考えるわ。だが、その程度の小細工を儂が気付かんと思うたか。ガルシア男爵も人質を盾に二千人、兵を出させている。計一万二千。こちらの勝ちは固い)
「しっかりとした準備もしてあるだろうな?」
「はい。事前に山賊討伐の名目で援軍に駆けつけると周囲には伝えてあります」
「よろしい。あのクソガキが! ブランを殺したのは、十中八九奴の手先よ! 必ず復讐してくれるわ。軽い戦じゃ終わらせんぞ。徹底的に潰す」
エンデは怒りのこもった口調で言う。その迫力に、部下も息を呑む。
「必ずや、ブランさんの仇を」
ブランはクラントン家の知を担っていた。
エンデは今回の軍議に物足りなさを感じていた。いつもであれば、ブランが自分に意見をしたり、新しい策を出して来た。だが、今は居ないため自分の意見が全てそのまま通ってしまうのだ。
(やはりブランがおらんと全て儂が指示しないといけない。奴め、こんな時に逝きおって……)
エンデは亡くなった友のことを思い出しながら、小さく溜息を吐いた。
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