私もついて行く
その夜、俺は屋敷に再び向かう。
「どこにいくつもりですか、アンネさん」
思いつめたような顔で、外に居たアンネ。
「シビル……。散歩よ、ただのね」
だが、その顔を見れば目的は想像がつく。
「クラントン伯爵を直接狙うつもりですね。いくら貴方でもそれは流石に無理だ。警戒されているうえに、周囲は手練ればかりです」
ブランの暗殺で、敵は暗殺を警戒しているだろう。無駄死にになる可能性は高い。だが、冷静な俺の指摘はアンネの心には届かなかった。
「あんたに何が分かるのよ! 負けたら、パンクハット家の皆も、リズリー様も死んでしまうのよ! 私は……リズリー様のためなら命も何も惜しくない。ただ、生きてくれたら……」
アンネはそう言って、涙を流して蹲る。その姿は暗殺者ではなく、ただの少女そのものである。
「俺が必ず勝たせる! だから何も心配するな。おとなしく、戻ってきたリズリー様を歓迎する準備でもしておけ」
「何を言っているのよ! 勝てる訳ないでしょ! どれだけ戦力差があると思っているのよ。こんなの勝てる訳ないわ……」
アンネはそう言って、泣きじゃくる。 俺のような来たばかりの軍師の戦略では安心できなかったのだろう。まだパンクハット家内での信頼を得られてないのを実感する。
「俺達はクラントン伯爵如きの軍にはやられたりしねえ。だから泣くな」
「……私もついて行く」
「え?」
思わぬ言葉に思考が止まる。
「あんた、今からガルシア男爵家に行くんでしょう? その後は戦場でしょ? 私も戦場でリズリー様をお守りするわ。男装するから連れて行きなさい」
確かに、アンネは強いかもしれないが、暗殺者が戦場で活躍できるのだろうか。だが、断れる雰囲気ではない。その目には命に代えても主君を守るという強い意志を纏った女の姿があった。
「……分かった」
それにしても、愛する人を守るために祈るヒロインは要るだろうが、敵を暗殺しに行くヒロインが未だかつていただろうか。
男装したアンネ、ダイヤ、シャロンと少数の兵を連れて、俺達はパンクハット領を発った。
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