ネズミ
「はい。二つ目は敵の主だった将を事前に討ち取ります。今回の戦争までに敵幹部のブランを討ち取りたい。奴がいると、こちらの策が綺麗に嵌りません。敵の軍略の知を担うブランは必ず事前に討ち取りたい」
ブランとは、クラントン家に長く付き従う二将のうちの一人だ。大変頭がよく、慎重派な男で、奴がいると策に嵌め込めない。
「奴が討ち取れれば、大きく有利になるだろうが……小競り合いに奴は出て来ないぞ?」
「最近、うちの敵は不審死が多いですから、それで死んでくれたらよいのですがなあ。幹部はリズリー様子飼いの暗殺者の仕業と言っておりますぞ」
と言って、エルビスが笑う。本人も本気で言ってる訳では無い。
「そうであれば良かったが。うちに暗殺者などいないことはエルビスが一番知っているだろう?」
どうやら敵の謎の不審死の謎は誰も分かっていないらしい。
「知っておりますとも。余計なことを申しました」
「事前に討ち取るのが難しければ、開戦直前にブランのみを狙う予定です。ブランについてはもう少し練ろうかと」
「それは任せよう。何か必要な物があれば言うといい」
「ありがとうございます。三つ目ですが、敵兵の数を減らします」
「そもそもクラントン騎士団は寄子の兵を集めてもせいぜい一万だろう? 想定より随分多いな」
エルビスさんが疑問を呈する。
「二千は援軍のようです。援軍相手は、ガルシア男爵家です」
その言葉を聞いて、クールなリズリーさんの顔に動揺が走る。ガルシア男爵はリズリーさんの友人だ。先日も楽しそうに会っているのを見た。
「なに!? ガルシアがこちらを裏切るなんてありえん! 奴は子供の頃からの親友だ。お前の予知はなんでも当たると聞いていたが、外れることもあるんだな」
リズリーさんは上ずった声で言う。
「そこまでのご関係でしたか。ですが嘘など申しません」
俺ははっきりとリズリーさんの目を見据えて伝える。リズリーさんには悪いが、ここを信じて貰えないと話が進まない。
しばらく沈黙が続いたのち、リズリーさんは椅子に座り溜息を吐く。
「ふう、君のスキルは辛いものだな。何でも暴けるというのは、知りたくないことも知ることになる。本当なら、何か……事情があるのだろうな。シビル、分かるか?」
「はい。ガルシア男爵家は借金の片に子供を、クラントン家に人質として取られているようです。今回の戦でも、子供を盾にして逆らえなかったのだと思います。既に借り入れ分は返済が終わったようですが、法外な利子により子供を取り返せていない状況のようです。」
「クラントン家のやりそうなことだ。下衆なことを。ガルシアも俺に一言でも相談してくれれば……だが、それなら子供を取り返せばガルシア騎士団の援軍は潰せるな?」
「仰る通りです。今は秋。冬までに子供を取り返し、あちらを離脱させます。そして、できればこちらの援軍に」
「ガルシアがこちらについてくれるならいうことは無い。必ず子供は取り返せ。兵が追加で必要か?」
「おそらくこれは少数精鋭での任務になります。必要な場合はお願いいたします」
「分かった。で、四つ目はなんだ?」
「四つ目ですが、情報です。こちらの幹部に一人ネズミが居ます」
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