策を
戦場は、クラントン領からこちらへ少し進んだ先にある河を越えた場所のようだ。
河の幅は百メートル近い。普通に考えると、この河の先でうちが待ち構える形になるだろう。
深さは一メートルもない。この程度なら徒歩でも渡れるだろう。
周囲は見晴らしがよく、ところどころ丘陵がある。
通常の戦い方では間違いなく負ける。だが、前回と違い複雑な地形でもない。
俺はメーティスに尋ねながら戦略を練っていく。
いけるか?
いや、いけるか、ではない。四千人の命を背負うのだ。
成功させるのだ。俺の力で。
策は練った。
俺は他にもあらゆる情報を集めつつ、再度、リズリーさんの元へ戻る。リズリーさんの執務室に入ると、ペンを置きこちらへ向く。
「ほう、前よりはすっきりした顔をしているな。策ができたようだな」
「勿論。勝利をもたらしてこそ、軍師ですので」
「よろしい。では、幹部を皆集める。策を聞こう」
「いや、それはお待ちを。今回はエルビス様だけ呼んで頂ければ」
それを聞いたリズリーさんは少しだけ沈黙した後、口を開く。
「分かった。すぐに奴を呼ぶ」
エルビスさんはすぐにやってきた。
「クラントン伯爵軍がこちらを狙っています。数は一万二千。おそらく秋に」
おそらくこのままだと二か月後には戦が始まる。
「早いな。こちらの想定よりも。まだ練兵も終わっておらぬ」
「エンデは馬鹿ではない。子供の癇癪のために軍を動かすような男ではない。こちらの動きを感づかれたか。軍備を増強しているのが漏れたのだろう。だが、これは好都合だ。こちらからクラントン家を襲ったらパンクハット家は取り潰しを受けてもおかしくない。だが、あちらから攻められ、それに応える形なら世間体もいい」
「若様、世間体を気にしている場合ではありませんぞ」
「勝っても、言いがかりをつけられては意味がない。うちの寄親であるバルデン侯爵に証明を頼もう」
要するに、あちらが襲ってきたから仕方なく応戦しましたよ、と証明してもらうということだ。貴族には寄親制度という物があり、上位の貴族が下位の貴族の面倒を見る制度があるが、パンクハット子爵家は、バルデン侯爵家に世話になっているようだ。
「今回はかなり厳しい戦いになります。そのため、天候を制し、敵の将を減らし、数を減らし、情報を制します。まず一つ目ですが、戦の時期を秋から冬にずらします」
「「冬に?」」
俺の言葉に、二人は首を傾げた。
「先ほど、秋になるとお主自身が言っていたではないか。どうやって遅らせる。敵は秋に向けて準備を進めているのではないのか?」
「準備はこれからだとメーティスに確認しています。クラントン領付近の食料の買い占めをお願いしたい」
それを聞いたリズリーは頬を僅かに上げる。
「なるほど。敵の兵站を抑える訳か。パンクハット領の都市まで狙っているのなら相当量の食べ物が必要なのは間違いない。だが、相当量買い込まねばなるまい。できるのか?」
「はい。敵は一万二千、しかもこちらの都市にまで攻める予定なら一ヶ月分くらいは必要なはずです。用意するのを邪魔すれば、戦場の時期をずらすことは可能です。多少お金はかかりますが……」
「悪い案ではない。練兵への時間もできる。だが、大金を払ってまで冬にする理由はあるんだな?」
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