ボルドー
ボルドーは部下を連れ、山越えを行っていた。ハルカ共和国で村や町を荒らし続けた結果、王国軍が遂に動き始めたので狩場を変えるためだ。
既に暗闇の中、月明かりのみがボルドー達を照らしている。
「まだ、帝国の奴等にはばれてないはずだ。パンクハット領だっけか。とりあえず村何個か滅ぼして、女と食料を得ねえとなあ」
千人もいると、必要な食料も多い。山賊として山を根城にするのは慣れているとはいえ、楽とは言えなかった。
その証拠に全く敵と遭遇する機会もない。最近していなかった略奪を想像して下卑た笑みを浮かべる。
既に峠は越えパンクハット領に入っている。食料もあまりないため無理な山越えをしたため部下の疲労は大きい。
「お前ら、念のため前方見てこい。何かあったらすぐ報告しろ」
「……へい」
部下達も疲れているため不服そうだが、頭目であるボルドーに逆らうこともできずに静かに前に向かう。
だが、数十分経っても先遣隊が戻ってこない。百を超える山賊達がだ。その事実にボルドーは警戒心をあげた。
「魔物の群れでも出たか? そんな情報聞いてなかったが……お前ら警戒しろ」
ボルドーが何者かに襲われているのに気づいたのは、少し離れて左側を守備していた部下が音を聞き、向かった先から戻ってこなかった時だ。
(まずい……。完全に狙われてやがる。これは獣じゃねえ。人間だ。パンクハット軍か? だが、なぜ騎士団如きに俺達の山越えが予想できるとは思えねえ。裏切者か?)
「ギャアア!」
部下の悲鳴が聞こえる。またどこかの隊がやられたようだ。
敵の数も、敵が誰かも、どこにいるのかも分からないボルドーの思考が止まる。だが、やられているのは分かった。
「そういえば、お前。昨日の夜どこかに行ってなかったか? お前、俺達を軍に売りやがったな!」
「お頭ァ! あれは只のトイ—―」
ボルドーは遂に部下の一人を捕まえ、叩き斬る。
「クソがッ! 一体どうなってやがるんだ……」
ボルドーが悪態をついた時、上から何か音がした。
「お頭、丸太が!」
「ああ?」
直前まで丸太が近づいてようやく気付く。大量の丸太が上から落とされているという事実に。
「ギャア!」
「グエッ!」
次から次へと振って来る丸太に完全に嵌められたこと気付く。
「放て!」
命令と同時に降り注ぐ矢の雨。部下達は多くが怪我をし逃亡する者も多い。
「畜生! 何者だお前!」
ボルドーは大剣を抜いて叫ぶ。
「狩られる側になった気分はどうだい、ボルドー?」
ボルドーは若い男の声を聞いた。そして次の瞬間には腕を凄まじい速度の矢で射抜かれていた。
「グウウ!」
(凄腕の射手がいやがる! こんな化物部隊聞いてねえぞ! 帝国騎士団の精鋭が待ち構えてやがったのか?)
ボルドーは完全に敗北を理解し、逃亡する。彼の判断は正しい。だが、悲しいことにそれすらメーティスは見透かしていた。
次の瞬間、ボルドーの首が宙を舞う。仕留めたのは、シャロンであった。
「弱いな……。シビルの邪魔が無ければ戦いになっただろうに」
シャロンは落とした首を見ながら呟く。
「ボルドーは仕留めた! 残党狩りだ!」
「「「オオーーーーー!」」」
恐ろしいほどの手際の良さに、騎士達も信じられないと言った顔で残党狩りを始める。
夜明けには八百を超える骸が山に転がることになった。
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