エスコート
翌日、ネオンの泊まった宿に迎えに行く。
「おはよう、ネオン」
「おはよう、シビル。今日はエスコートしてもらえるのかしら?」
「勿論。こちらへどうぞ」
と言っても馬車も何もないので徒歩である。
「シビル、私予想通りに本当に一瞬で出世したね」
「まだ、騎士爵だけだけどな」
「まだこの国に来たばかりなのに十分よ。本当は一緒に商店したかったけどね」
ネオンが少し悲しそうに言う。
「それは……ごめん」
俺には謝ることしかできない。一緒にネオンビル商会を立ち上げたのに、こちらの都合で辞めたのだ。
「別に責めてる訳じゃないから、気にしないで。うちも店員雇うくらいに大きくなったの。もうすぐ店も出せるかも」
「ネオンならすぐ出せるよ。俺が保証する。俺は今まで目標なんてものは無かったんだ。だけど今は違う。俺は力が欲しい。君や、皆を守れるような力を。そのためには、人脈も、権力も、武力も全部必要だ。だから俺は目指すよ、皆を守れるような大貴族に。そして大将軍に」
「ふふ、言うようになったじゃない。貴方はきっと英雄になれる。私も手伝ってあげる」
そう言って、ネオンは微笑む。その屈託のない笑顔は素直に綺麗だと思った。
「ありがとう」
「だから、ネオンビル商会を御贔屓に」
ネオンは茶化すように笑う。しっかりしてるな。
「勿論、俺の領地の御用商人は君に」
まだ俺の領地なんてないんだけどね。
「ふふ、交渉成立ね。それにしても、貴方がパンクハット子爵の元に身を寄せるなんてね」
「なにか不思議なのか?」
「彼は出世欲が高いから、今の貴方にぴったりだと思う。有能な若手をどんどん吸収してると聞いてるわ。最近も強いけど手の付けられない荒くれものを雇ったと聞いているわ。けど、それほど戦力拡大を焦っているとなると、何かあるのかもしれないわ。気をつけなさい」
「何かね……気を付けるよ。俺が領地を手に入れたらネオンビル商会一号店を建ててよ」
まさか既にクラントン伯爵家に喧嘩を売ったとは言えない。
「いつになるのよー」
「なに、すぐさ……。戦はきっとまたすぐ始まる。乱世でこそ、チャンスはあるものだろう?
」
「なに、格好つけてんのよ! あんた全然戦えないでしょうが!」
頬を引っ張られる。
「いてて。強くなったんだよ、って言っていいかは分からないけど。この弓が優秀でな」
俺はランドールを見せる。
「一目見ればわかる。良い弓ね。それにしても、武器で強化するなんて成金~」
「うっ! 痛いところをつくね、君は」
実際、俺の強さの九十九パーセントはランドールのお陰であるから何も言えねえ。
「冗談よ。早いところ、パンクハット子爵の信頼を勝ち取るのね。新人の肩身は狭いわよ」
「なに、俺のメーティスは政治でも活躍できる。だが、まずは軍人として活躍しようかね。兵を少数だが、融通してくれるらしい。五百だったかな?」
「新人にしては多いわね」
「信用ですよ、信用。アルテミア王国との戦争を評価されたらしい。その信用には成果で報いる。必ずな」
「軍人の顔になったわね、シビル。あまり無理はしないでね。元々貴方、戦争が向いてるとは思えないもの」
「ありがとう、ネオン。無理はするつもりは無いよ。戦争が向いているかは分からないけどね。昼食でも食べに行こうか。いい店を知っているんだ」
その後はのんびりと今までのたわいのない話をして過ごした。ネオンも俺と別れてから色々大変だったらしいが、着実に資産を増やしていた。確かに店を持つという目標に大きく近づいているようだ。
昼食を食べた後、都市を歩いていると、通りで取っ組み合いの喧嘩をしている男二人組が居る。既に流血騒ぎで、警備を呼ばれる事態となっている。
「邪魔だなあ、通れないじゃん」
俺が呆れたように呟くと、全く気にせずにその二人の間を通るメイドの姿があった。二人の間を通ったにも関わらず、あまりに自然な動きで通り過ぎたことに驚く。
「あれは……アンネさんだったっけ?」
「パンクハット家のメイドさん? 流石に名家のメイドは落ち着いてるわね~」
と二人で感心する。
ちなみに俺も行けるか挑戦したけど、思いっきり脇腹に蹴りを受け吹き飛ばされた。
ネオンに、やっぱり軍人向いてないんじゃない? と呆れられてしまった。いや、だって一般人に弓なんて放てないじゃないか。
その後、夕日が出る前にネオンと別れる。
明日からはようやく兵を率いる立場になる。俺はわくわくする気持ちを抑えられなかった。
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