エンデという男
クラントン伯爵の屋敷は広大な庭園が綺麗に整えられていた。多くの庭師の手が入っていることがよくわかる。大きな塀に囲まれた屋敷は、多くの守衛に守られている。塀の外では、領民達が噂話に花を咲かせていた。
「この間、公園でクラントン伯爵夫妻をお見かけしたわ。とっても仲が良さそうでしたわ」
「ああ~。よくいらっしゃるらしいわね。クラントン領では有名なおしどり夫婦ですもの」
「部下には鬼のように厳しいと聞いてましたから、どんな人かと思ったらにこやかに奥様に話しかけてらっしゃったわ」
「実際、無能な部下が良く粛清されてるらしいから間違いじゃないかもしれませんわ。子供にも甘いとは聞きますけど」
「身内にだけ甘いのねえ」
噂の当人であるクラントン伯爵家当主エンデ・クラントンは執務室で長男カルロ・クラントンに迫られていた。
「父さん、なんであいつを砦に戻せなかったの? 砦にならこちらの者も送り込めたのに!」
「カルロ、無理を言うんじゃない。あれだけ成果を出した男を無下に扱うと、変な噂が立つだろう。成果に報いない帝国だとな」
「手柄を奪ったに決まっている! この俺を殴ったんだ! ただじゃ済まさないぞシビルめっ! 今すぐパンクハット領に軍を! 俺が先陣を切る!」
エンデは溜息を吐きながら、答える。
「分かったから。これから会議だ、一度戻れ」
エンデの言葉に、渋々部屋を出るカルロ。
「困ったものですなあ。坊ちゃまも」
クラントン家を支える幹部の一人、ブランがあきれ顔で言う。
「少し甘やかしすぎたようだ。年を取っての初めての息子だからな」
「鬼のエンデ様も親ですな」
「放っておけ。だが、カルロの言うことも一理ある」
「リズリーですかな?」
ブランは真面目な顔で尋ねる。
「ああ。奴はおそらくこちらの領地を狙っている。怪しい動きも確認している。奴は今の地位に全く満足していない。実力のある獅子とは厄介なものよ」
エンデは葉巻に火をつけると、煙を吐く。その姿は冷たい表情と相まって裏世界のボスにしか見えない。
「獅子も鬼には敵いませんよ」
「リズリーは、二度と愚かな真似をできんように徹底的に叩く」
「はっ、かしこまりました」
「あのカルロが敵視している軍師とはどのような奴なんだ?」
「シビルという男は噂では未来を読めるように戦うらしいですね」
「なにを言っておるんだ、そんなスキル聞いたことないわ! だが、もし本当なら……厄介なものよ」
冗談としか思えないようなスキルを一笑に付さないところが、エンデの慎重さを感じさせる。
シビルにとっては不幸なことにエンデは優秀な男であった。その男の目が、シビルをきっかけにパンクハット領に向いてしまった。
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