取り消せよ
新しい雇い主になるパンクハットさんに挨拶に行かなければ、と探すも中々見つからない。どうやら少し席を外しているようだ。このことをシャロン達に報告しに向かう。
「詳しいこと聞いたことは無いが……まあ良いだろう」
「僕もついて行くよー。今更僕だけ砦に戻るのもなんか変だし」
三人でパンクハットさんを探していると、どこかで見たような顔を見つけてしまう。クラントンジュニアである。
関わりたくなさが凄い。もう勘弁してほしいというのが正直なところだ。しつこいんだよなあ。
「よう。お前みたいな雑魚がよくあの砦で生き残れたな。上司の靴磨きでも必死にして取り入ったのか?」
はい、きましたー。挨拶代わりの悪口ですね。そういうところだよ、君がもてないのは。
俺がもてるかどうかは悪いが棚にあげるぜ。
「さあ。運が良かったのでは?」
「お前みたいな腰抜けの命令を聞かないといけない兵が可哀想だなあ」
「そうかい、話がそれだけか? じゃあな」
俺は無視して進もうとする。だが、この色情魔がシャロンを逃すはずがなかったのだ。
「お前、揉めてあの砦に飛ばされた女だろ? 俺はカルロ。俺の妾にしてやろうか? そのゴミと居るよりましな生活ができるぜ?」
これは酷い。こんなひどいナンパに引っかかる女がいるなら見てみたいね。
「自分より弱い男には興味がないので」
随分イラっとしたのだろう、中々のカウンター攻撃をかますシャロンさん。
「随分教育がなってないな。ゴミ女が!」
自分より下と思っていたのか、一瞬で逆上したカルロは、シャロンの左頬を思い切り平手を打ち付ける。
シャロンはそのまま地面に倒れ込んだ。
だが、切れたカルロはこれでも気が済まなかったのか同時に汚い罵声を吐き散らす。
「見た目しか取り柄の無いゴミが粋がりやがって。どうせその顔と体で上司に取り入ったんだろう?」
この野郎、なんてことを……!
「取り消せ……クソ野郎! シャロンはそんなことをするような人じゃない。誰よりも誇り高い人だ」
俺は拳を握り締め、カルロに詰め寄る。
「やめろ、シビル! 私のことはいい! 貴族に手を出すな!」
シャロンが叫ぶ。
「腰抜けが粋がるじゃねえか! 俺は次期伯爵の男! 手を出せばどうなるか、子供でも分かることだ!」
カルロは笑顔で俺を煽る。
『殴らない方がいい?』
『イエス』
知ってるさ。そんなこと。だがな……。
俺は思い切り右ストレートをカルロの顔面に叩き込んだ。カルロはそのまま壁に叩き付けられる。
「仲間を侮辱されて、仕返ししない理由にはならねえんだよ!」
「シビル!?」
ダイヤが叫ぶ。
カルロは俺を睨みながら立ち上がる。
「てめえ、誰に手を出したと思ってるんだ? この場で殺してやる!」
奴が剣を抜くと同時に、俺は矢を構える。
「この距離、どちらの間合いだと思う?」
「俺は首を落とされても、お前の眉間を撃ち抜くぞ。必ずな!」
「貴族に手を出したんだ……! お前は処刑だ!」
「お待ちください、カルロさん。彼は私の部下でしてね」
そう言って、後ろから現れたのはパンクハットさんだ。
「邪魔をするな、子爵家も潰されたいのか?」
「そちらこそ勝手に人の部下を処刑するなんて、問題行為以外の何物でもないでしょう? 一部始終を見てましたが、先に手を出したのはそちらのはずだ」
「……下級貴族が! お前達、全員必ず殺してやるからな!」
「お前こそ覚えていろ、カルロ。シャロンを侮辱し手を出したことを後悔させてやる……!」
カルロは俺達を睨みながらも、剣を収めそのまま去っていった。
俺は床に座っていたシャロンに手を伸ばす。
「あの程度で怒らなくてもいい。よくあることだ」
「なら尚更怒らないと。君はあんな侮辱されるような人じゃない。そんな受ける必要のない侮辱で君の心が少しでも汚されるのは決して看過できることじゃない」
シャロンの新雪のような真っ白な頬が、少しだけ朱色に染まる。
「そうだな……。これからは再び私も怒ることにするか」
そう言って、シャロンは笑った。シャロンはその容姿のせいか貴族から目をつけられやすい。
「大丈夫。これからは俺が必ず止めるからさ。あいつに必ず落とし前もつけさせるさ」
「期待しよう」
いつもより少し素直なシャロンが俺を手を取り、立ち上がる。
「パンクハットさん、先ほどは庇っていただきありがとうございます」
俺は頭を下げる。
「いや、良い啖呵だったよ。シビル。俺の名はリズリー・パンクハット。爵位は子爵だ」
リズリーというのか。
すらりとした百八十を超える長身に、金髪をセンターで横分けにしている。少しウエーブが入っており、整った顔にとてもよく似合っている。そして、黒いハットを被っている。面長で切れ目のため少しだけ冷たそうな印象を受けた。
「よろしくお願いします。ですが、すみません。早速クラントン家と揉めることに……」
「なに、間違ったことは何もしていなかった。気にするな。これからはパンクハット騎士団の軍師として働いてもらうことになる。優秀な人材を集めているところでね。これから期待している。詳しい話はうちの領土しようか。後ろの二人は君の部下かな? 一緒に来ても構わない」
「仲間です。助かります」
こうして俺達はパンクハット領で士官することになった。そして分かっていたことだが、このことは後に大きな問題と発展することになる。
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