ヘルク
とある大きな屋敷の一室。とても大きな机の上には豪勢な料理がこれでもかと並んでいた。
美しいサファイヤのような青髪をした青年がフォークをステーキに刺し、頬張っている。
とても顔が整っており、社交界に出れば、殆どの少女が恋に落ちるだろう美男子だ。澄んだ青い目も、髪も全てが宝石のようだった。まだ年は十八程度だろう。
その顔に合った綺麗な服を羽織っており、一目で高い身分であることが分かる。
そんな青年の前に、媚びへつらうような笑みを浮かべる中年貴族の姿があった。
「今回は誠に素晴らしい成果でした。流石はグラシア家次期当主様です」
中年貴族の言葉を聞き、青年はにっこりとほほ笑む。
「いえいえ。グラシア家の部下の強さがあってこその勝利だ。私は何もしていない」
「そんな、ご謙遜を。二つのスタンピードで溢れた魔物達を一瞬で犠牲も無く退治されたあの手腕。お父様もお喜びでしょう」
「父も喜んでいたよ」
と笑顔で返す。
「ヘルク様、またソースをこぼしています。お気を付けを」
後ろの美しいメイドが、ソースを零した青髪の青年ヘルクの服の汚れを拭った。
「ハハ、ごめんよ」
と少年のような笑みを浮かべる。
中年貴族は見ないふりをして、話を続ける。
「私も戦場であなたの雄姿を見ましたが凄まじい強さでしたな、ヘルク様。一人でも全滅できそうな強さでしたぞ」
中年貴族の言葉は世辞も入っていたが、ヘルクの強さは異常な強さだった。二つのスタンピードを合わせると三千を超える魔物が居た。
「ハハハ、流石にそんな馬鹿なことはしないよ」
「はは、そうですな」
「時間がかかるからね」
ヘルクは笑顔で応える。ヘルクは冗談で言っているようにはとても見えない。なにより本当に一人でも全滅させそうな凄みが彼にはあった。
「ご冗談が上手いようですな。だが、この戦でまたヘルク様の階級も上がりそうですな」
「いつかはグラシア家に戻るとはいえ、今は帝国騎士団所属だ。中隊長くらいにはなりたいね」
「この成果を皇帝陛下もお喜びになっているようで。次の式典で、直接叙勲して頂けるそうですぞ」
中年貴族の言葉を聞いたヘルクが感心したような顔をする。
「珍しいね。これくらいの小競り合いで陛下から直接貰えるなんて」
「数千の魔物のスタンピードを小競り合いとは、流石ですな。新たな英雄となるヘルク様をこの目で見たいのではないでしょうか」
「ふーん、まあいいや。そう言えば、アレクシア王国との戦争はどうなったのかな? たしかうちからはマルティナさんが出てたよね。人数差を考えると結構厳しいんじゃない? 僕も出ようかな?」
ヘルクは再び肉を食べつつも何気なく言う。
「いや、それがこちらの勝利で終わったらしいですぞ。犠牲は多少あったみたいですが」
それを聞いたヘルクは驚いたような顔を見せる。
「へぇ。マルティナ隊とラーゼ軍だよね。人数差は倍くらいあったはずだ。とても勝てそうには思えないけど」
「新人軍師が援軍で来たみたいですが、そ奴が活躍したと聞いています。ヨルバ様の秘蔵っ子だそうで」
「……へえ。あのヨルバ様の。興味あるね」
ヘルクは美しい青い目が輝かせながら言う。
「彼も式典に呼ばれるそうですから、顔を見る機会はあるかもしれませんぞ」
「楽しみだ!」
ヘルクは笑顔で立ち上がる。それを見たメイドが再び口を開く。
「ヘルク様。ボタンを掛け違えています」
沈黙がその場を支配する。美しいメイドはそれを気にせずに、ヘルクのボタンを直す。
「ありがとう、セレナ」
「仕事ですので」
(帝国一の大貴族グラシア公爵家の次期当主だが、普段は中々抜けておるわ。大丈夫なのだろうか? だが、彼には不思議と魅力があるのも事実。ついて行きたいと思わせる謎の魅力が。あの圧倒的強さのせいだろうか? 彼を次期帝国騎士団第一師団団長に推す声も少なくない)
その様子を見ていた中年貴族はヘルクを測りかねていた。
こうして次期帝国を担うであろう二人の英雄候補が顔を合わせることになる。
これで3章は終了です。ここまで見て下さった方全てに感謝を。本当にありがとうございます!
途中随分時間が空いてしまったせいで、前の話を忘れた方も多いと思います。すみません。これからは、毎日投稿できるよう努めますので、よろしくおねがいします。
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