まるで未来を
太陽が大地を照らし始める頃、ロックウッド軍は鎧の中を汗だらけにしながら悪路を進んでいた。
「なんてひどい道なんだ……。断崖絶壁で何人か死んでしまった」
騎士の一人が思わず愚痴をこぼす。
「あれは本当に危険だったな。敵にばれていたら、全滅だった。だが、だからこそ敵の目を欺ける。レナード様の策は凄いな」
横に居た騎士が、この奇策に感心する。ロックウッド軍は、敵の見張りを必ず始末してから慎重に進んでいた。
ハイルは、軍の中央に居ながら先を見つめる。先は狭く、左右が断崖に挟まれている。ハイルは上を見ながら指示を出す。
「左右の崖に斥候を出せ。必ず複数で行動させ、数分おきに報告を徹底させろ。報告が消えたら、即座に戦闘態勢に入れ」
「はっ!」
ハイルの命で左右の崖に十人程の斥候を出す。
「良い指示だ。もし敵が仕掛けてくるなら、上からだろう。崖の斥候に先行させれば不意打ちは防げよう」
「二度も岩にやられる訳にはいきませんから」
父の誉め言葉に笑顔を見せるハイル。
「上に敵兵の姿ありません」
「先行しろ!」
「はっ!」
斥候は崖から報告した後、先に進む。
「それにしても過酷な道だ。会敵する前に体力が失われる」
ハイルも額の汗を拭う。崖や悪路をここ二日ずっと進んでいたため、体力の消耗は大きかった。
「なに、敵陣までもうすぐだ」
崖を登ってきたため皆、馬を置いてきた。機動力はすっかり失われている。
ロックウッド軍は狭い悪路を、必死で進む。そして大きく開けた場所に辿り着いた。広く円形に開けた場所だ。
ハイルはまず崖の上を警戒する。
「斥候!」
「報告します。崖上に敵影ありません!」
斥候は本隊よりも先まで進んでいる。崖の上に敵は居ないのだろう。
「敵が居るなら、崖上でしょう。おそらくまだばれていないようですね、お父様」
「敵もこれは予想できなかったようだな。それも仕方あるまい。こんな悪路を通る者は普通いまいて」
レナードは自分の策の成功を確信に笑みを浮かべる。
「皆、少し休む。体力を回復させろ!」
「「「はっ!」」」
騎士達は開けた場所に、腰を下ろし休み始める。騎士達は腰から水を入れた革袋を取り出し、水を飲む。
「うめえ!」
皆最初は警戒しつつも、上を斥候が見張っているおかげか、少しずつリラックスしていた。
ハイルも中央に腰を下ろし、水を飲んだ。
「もうすぐだ……」
思ったよりも苦戦した今回の戦だが、これで終わるという安堵があった。
ハイルがそろそろ動こうとした時、突如笛の音が周囲に響き渡った。
「ピーーーーーーーーーーーー!」
次の瞬間、周りを囲んでいた崖の壁が破壊され、四方から騎馬に乗った帝国軍が飛び出して来た。
「全軍、突撃だああああああああああああああああ!」
マルティナの勇ましい激と共に、帝国軍がロックウッド軍に襲い掛かる。
(どういうことだ!? いつからここに潜んでいたんだ? こんな策、我々がここで休むことを予知できないと……。まるで未来を……まっ、まさか、敵に奴が!?)
ハイルは動揺しつつも、何かに気付いた。
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