謀
その夜、帝国軍の将校達は天幕の元に集まり、今日の戦果について話していた。
「こちらは敵騎兵二百を葬りました。被害は無し」
「こちらは敵弓兵百、歩兵二百を仕留めた。勿論被害はゼロ」
「こちらは工兵五十、歩兵百を仕留めました。こちらの被害は数名程度です」
どこも素晴らしい戦果を挙げていた。連戦連勝と言えるだろう。今日だけで千を超える敵を仕留めた。こちらの被害は百に満たない。
「うちは、百程。だが、こちらも五十を超えた被害が出た」
そう静かに言うのはドルトン。今回一番の激戦区を担当した男である。結果が出ていないことを恥じている様子だった。
「いえ、ドルトンさんこそありがとうございます。あそこが一番敵戦力が集中しており、過酷なところでした」
戦力も少ない中、よく頑張ったと言えるだろう。なによりハイルとレナード二人を相手にこの被害の少なさは有能であることが分かる。
「シビル、俺達が十分に時間を稼いだ分の成果は出たようだな」
ドルトンの言う通り、被害をマティアス軍に集中させることにも成功した。マティアス軍は既に千人ちょっとにまで数を減らした。一方、ロックウッド軍は二千五百程。明らかに偏っている。
「はい。明日、人数の減ったマティアスは共同戦線を張るようです。そこでマティアスを討ちます。右通路での挟撃のためにマティアスが潜んでいるところを狙い一網打尽にする」
「なるほどな。マティアスは情報が漏れていると、ロックウッドを疑うという訳か」
「ドルトンさん、その後奴等の軋轢を決定的にするために、ロックウッド軍にミスリル鋼の情報を流します」
俺の言葉に、皆が動揺する。
「なにっ! 隠していた情報を漏らすというのか!」
「他から狙われたら同じだぞ!」
今まで隠していたラーゼ軍の将校から反発の声が上がる。
「既にマティアスにはばれているんです。マティアスを退けた所でそこから結局漏れるでしょう。ならこの情報で敵の不和を生めるのならするべきだと考えています」
俺はドルトンを見つめる。現状の最終決断者はドルトンだからだ。ドルトンはしばらく沈黙した後に口を開いた。
「分かった。ロックウッドに流してもいい」
「ドルトンさん!?」
皆驚きの声を上げる。俺もその返事に驚いた。ドルトンは嫌がると思ったからだ。
「シビル……君を信じよう。それで勝てるのなら」
ドルトンの言葉に、皆反論できなかった。
「ありがとうございます。必ずや勝利を」
俺は頭を下げる。皆勝利のために一つになっていると感じた。
翌日、太陽が顔を出した頃軽い運動をしているシャロンの元に来客が訪れる。
だるそうにシャロンが目を向けた先には、イヴが居た。
「おはよう、シャロンさん」
だが、シャロンは返事をすることなく運動を続ける。
「今、シビルと同じ所属なんだって? 羨ましいな」
一瞬沈黙した後、シャロンがようやく口を開く。
「何が良いんだ、あんな奴。弱いし……ヘタレだ」
「そう? 確かにそんなに強い訳じゃないけど、いざってときは誰よりも男らしいんだよ?」
「ふう、あんたは物好きだな。あんなのが好みとは」
シャロンが呆れたように頭を押さえて言う。
「貴方も物好きなんじゃ? だってわざわざついて来たんでしょ? 帝国騎士団への推薦もあったのに」
「……何が言いたい」
シャロンの鋭い眼光に気付いたイヴが頭を下げる。
「ごめんなさい。怒らせるつもりはなかったの」
「私達はお前が考えるような関係ではない。余計な邪推は止めろ。後、私は馴れ馴れしい奴は嫌いだ」
そう言って、シャロンは去っていった。
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