突然の追放
本日複数話投稿します。
「シビル、お前には今日限りでこの屋敷を出て行ってもらう。二度とロックウッドの名を名乗ることは許さん!」
「お父様、どうしてですか!?」
屋敷の執務室に呼ばれた俺は父レナードから告げられた突然の言葉に、なんとか言葉を返す。だが、父はそれを聞いてただ呆れた顔をして口を開いた。
「次男であるハイルが『剣聖』のスキルを取った事は知っておろう。当主の座はハイルに譲ってもらう。お前のような怪しいハズレスキルの長男など恥でしかない。今日中に我が領を、そしてこの国を出て行け」
この世界では十五になると皆スキルを発現する。先日弟のハイルに『剣聖』スキルが発現したことは知っていたが、まさか発現後すぐ追い出されるとは。
俺のスキルは『神解』といい、世界でも未だ出たことがない固有スキルだった。
『神解』は質問の答えが「イエス」か「ノー」で分かるというもの。
例えばギャンブルのコイントスでスキルを使うと、
『次のコインは表が出る?』
『イエス』
コイントスでどちらが出るか百パーセント分かる。ギャンブル界の王にも余裕でなれるだろう。
俺が現在行っている領地運営の事業においては、
『この事業は成功する?』
『ノー』
もしノーと言われたら止めるべきだろう。
『イエス』
もしイエスと言われたら、さらに詳しく尋ねて事業を行っていたが、実際に全て成功していた。
「確かに俺はハイルより弱いかもしれませんが、その分内政面において力を尽くしておりました!」
「黙れ! 金儲けに精を出す暇があれば、少しでも剣の鍛錬をしろ! この臆病者が!」
ロックウッド子爵家は代々脳筋家系で腕っぷしだけでここまで成り上がってきたのだ。そのため長男の俺にも戦闘スキルが求められていた。
だが、結果はこの固有スキル。便利だがいかんせん一対一の戦闘では使う事も難しい。
その分俺は十五でスキルを発現してから三年間ずっとロックウッド家の繁栄のため身を粉にしてスキルを使い働き続けた。その成果もあって、我が領地は年々発展しており、三年で収入も四割以上増加していた。
今ではこの領地の運営は殆ど俺がやっている。それにも関わらずこの言われようだ。どれだけ頑張っても俺が褒められたためしがない。言われることは、もっと鍛錬をしろ臆病者が、だ。
「分かりました。早々にここを発ちます」
兄弟で跡目争いをしていても仕方ないだろう。それに俺は正直戦いは苦手だ。未だに斬り合うのは怖いし、内政の方がよほど向いている。
「少しだけ支度金を渡しておく。二度と我が名を名乗るなよ」
「はい。分かっております」
父レナードはゴミを見るような目で俺を見つめていた。泣きそうになるも涙を堪え席を立った。
自室に戻ると、今まで部下だったはずの騎士が扉を開き床にアルテ銀貨一枚を投げ捨てる。
「これが支度金だ」
「冗談だろう? これじゃ、一週間生活すらできない」
アルテ銀貨一枚じゃ、一週間分の食事が精々だ。切りつめても十日だろう。
「レナード様のご厚意に背くつもりか。持って帰ってもいいのだぞ?」
「……分かった」
情けないがここで怒鳴っても何も変わらない。
「お前の私財は全て置いていけ、とのことだ。出る前に部屋の確認もするからな。じきに馬車が来る。身支度を済ませろ」
そう言って、騎士は去っていった。今までは穏やかな関係を築けていたと思っていたが大きな勘違いだったらしい。
「本気で、死ねってことかね」
大きく肩を落としベッドに座っていると、うちの家宰であるセバスが丁寧なノックの後に現れる。
「シビル様、この度の決定誠に残念でなりません。私めも何度もレナード様に止めるよう進言いたしましたが、力及ばず……。大変申し訳ありません」
そう言って、セバスは深々と頭を下げる。もう六十を超え、俺が幼い頃からお世話になっている第二の父のような存在だ。
「いいんだ。どうせ他人の言うことなんて聞きもしないんだからな」
「なぜこのような暴挙に……。いまや領主運営の殆どはシビル様が行っております。急に抜けたら、大変なことになることなど分かりそうなものですが」
「誰でもできると父さんは思ってるんだろうな。あの事件以来俺のスキルを全く信用してないからな」
あの事件とは、スキルを発現した直後父から
「ロックウッド家は勿論これからも繁栄するんだろう?」
と尋ねられ、メーティスに
『ロックウッド家は繁栄する?』
と尋ねた。だが答えは
『ノー』
だった。動揺した俺はそのままノーと、父に伝えてしまったがそれがいけなかった。
「そんな怪しい詐欺師のようなハズレスキル、二度と使うでないぞ!」
と目を血走らせて怒鳴って席を立った。
あれ以来、全く父が俺の『神解』を当てにしたことは無い。
「あれはロックウッド家の家臣としては信じたくありませんが……」
「事実を告げればいい訳では無いものだ」
あれは失敗だった。
「シビル様、これを……。あの進言以降レナード様に目を付けられており、少しだけですが」
セバスから革袋を手渡される。中にはアルテ銀貨10枚が入っていた。
「すみません、もっと渡せればよかったのですが、大金を動かすとばれてしまいます。これは私がレナード家に奉公しに来る際、母から貰った銀貨です。これならばれないでしょう」
「そんな、大切な物だろう……」
「いえ、シビル様に使っていただきたいのです。どうかお元気で」
そう言って、セバスは俺を抱きしめる。肉親よりもよほど優しいセバスの優しさに胸が詰まる。
「ありがとう、セバス! 大事に使わせてもらう」
セバスは最後まで俺の心配をしてくれた。
セバスと別れてすぐ、俺は屋敷の前に止まっている馬車に乗り込む。母も、誰も最後の挨拶すら来なかった。母も戦わない俺に冷たかったが、どうやらよほど嫌われているらしい。
同行する騎士二人は俺の部屋の物が無くなっていないか確認した後、前の御者の位置に座ると馬車を走らせた。
こうして俺は貴族を、そして国を追放されることとなった。
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