6.始まりの街
翌朝、ベッドの上で目を覚ました。
一瞬どこか分からなくなったが、すぐに宿の一室だと気がつく。
いつの間に寝たんだっけ。
ていうか、ベッドぐっちゃぐちゃだな。
俺、そんな寝相悪かったっかな。
昨日はカリンを助けて、ハンナさんと……お風呂……。
「ああああああ!」
思い出して、ベッドの上を転げ回る。
すごかったんだ、とにかくすごかったんだ。
とりあえず服を着て、一階に降りる。
「おはよう、リクさん」
テーブルを拭いていたカリンが、天使のような笑顔で挨拶をしてくれた。
「おはよう、カリン」
うーん、やっぱりカリンは可愛いなあ。
「ねえ、リクさん。昨日の夜、二階からゴトゴト音が聞こえたんだけど、何かあったんですか?」
やめてくれ、そんな曇りなき眼で俺を見ないでくれ。
「あらー、リクくん。お・は・よ」
お肌ツヤッツヤのハンナさんが、上機嫌で歩いてきた。
うぅ、昨日のことを思い出すと、まともに顔を見れない。
「いやあ、昨日は、カリンを助けてくれてありがとうね」
「い、いえ……当然のことをしたまでで……」
「うんうん、それに、私のお酒にもたーっぷり付き合ってくれたもんね」
艶っぽい流し目を送られ、頬が熱くなっていく。
「あー、お母さんったら、お酒飲んじゃダメって言ってるのにー」
「いいじゃない。少しくらい」
「少しじゃないでしょ。ごめんなさい、リクさん。お母さん酒癖悪いから、大変だったでしょう?」
カリンが心配そうに見上げてくる。
「いや、そんなことはないよ。とても、楽しいお酒だったヨ」
思わず声が裏返ってしまい、ハンナさんが大爆笑した。
「そうね、とーっても楽しいお酒だったわね。また、飲みたいわね」
ぺろりと舌なめずりするハンナさんに、背筋がゾクリとした。
すごく、楽しかったんだけど、俺の体が、もちません……。
「いいなー、いつの間にか仲良くなってるー。ずるーい」
「ふふっ、カリンには、まだ早いわねー」
「そんなことないもん。お酒くらい飲めるもん」
「そう? じゃあ、今度は三人でどうかしら。一から教えてあげるわ」
「ほんと? やったぁ! ね、リクさん、お母さんと三人だったらいいって!」
うん、言葉の裏が分かってしまうと、非常に危ない話題だ。
色々と妄想してしまうので、矛先を変えねば。
「ま、まあ、それはまたの機会ってことで。今日はカリンに、街を案内してもらいたいなあって思うんだけど」
「もちろん、いいですよ! 準備してきますね!」
カリンが部屋に戻ると、ハンナさんがスッと近寄ってきた。
「私の許可なしで手を出したら、承知しないからね」
「ハイ……ソンナコトシマセン……」
直立不動で、ハンナさんに誓う。
「うんうん。カリンが変な男に引っかからないように、ボディガードになってあげてね」
「ハイ、ワカリマシタ」
「ちょっと、そんな固くならないでよ。それは夜だけでいいのよ?」
ああ、俺はもうダメかもしれない。
ハンナさんには、色んな意味で逆らえない。
「お待たせしました!」
妙な空気を吹き飛ばすように、カリンが元気に戻ってきた。
昨日あげたワンピースを着ている。
うん、うん、可愛いねえ。
ハンナさんの娘とは思えないくらい……純真そのもの……。
「さ、行きましょ」
「うん、頼むよ。ハンナさん、いってきます」
「はーい、いってらっしゃい」
ハンナさんに見送られ、街へと繰り出す。
背負った袋には、昨日ゲットした蜘蛛の糸を詰めている。
「どこから案内しますか?」
「そうだな、近いところから行こうか」
本当はだいたい施設の場所を把握しているんだけど、それは黙っておく。
せっかくカリンがいるんだし、こういうのもいいだろ。
ハンナさんの宿屋『まどろみ亭』は、始まりの街の大通りに面している。
街の様々な施設にアクセスしやすいため、拠点とするには最高の場所だ。
大通りには、まどろみ亭のほか、武器屋や道具屋、冒険者ギルドなどの建物がずらりと並ぶ。
そして、細い路地がいくつもあり、そこには、街の人々の家や倉庫などの建物が並んでいるわけだ。
ゲームのときは、この大通りしか歩けなかったが、こうして見てみると、路地の向こうにも割と人はいるな。
「じゃあ、最初はギルドからにしましょうか。リクさんは登録しているんですか?」
「えっと、どうだろう……」
ゲームのときは、一番最初に自動登録されてるはずだけどな。
今の状態だと、どうなっているかは分からない。
「じゃあ、まず最初に行きましょうか。ギルド登録は基本ですからね」
「ああ、頼むよ」
街の中央に人間族が信仰する光の女神メナディースの像があり、冒険者ギルドはその傍らにある。
この手のギルドはゲームによって違いがあり、スカーレット戦記の場合はお役所みたいなイメージだ。
窓口があり、裏では事務作業に追われる人々がいて、ギルド長が統括している。
ガード役のNPCが多数いるので、荒くれ者の冒険者でも迂闊な真似はできない。
俺とカリンはガードに頭を下げ、ギルドの正門をくぐった。
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