5.猛獣ハンナさん
「ハンナさんの職業は何だったんです?」
「私? えー、恥ずかしいなぁ」
だいぶ酔ってきたのか、ハンナさんの顔が赤くなっている。
それに伴って、口調もフランクになってきた。
何杯飲んでるんだろ……というか俺も何杯飲んでるんだ?
「教えてくださいよ。別に恥ずかしくないですって」
「そぉ? それじゃ言うけど……アマゾネスよ」
「へ……!?」
顎がカクーンと落ちて、開いた口が塞がらなくなる。
アマゾネス……だと……? ハンナさんが……?
「ええっと、なんか酔って聞こえなかった。なんですって?」
「だーかーらー、アマゾネス!」
俺の耳元に口を寄せて、ハンナさんが大きな声で叫んだ。
あ、いい匂い。
ハンナさんの体から立ち上る香り、クラクラする。
「アマゾネス……ですか……」
「うふふ、そうよー。ま、今じゃだいぶ力も落ちたけどねー」
アマゾネスっていうのは、戦士系の二次職だ。
その名で分かる通り、女性しかなれない職業の一つで、端的に言うと脳筋女戦士だ。
両手持ちの斧とか大剣、あるいは二刀流なんかを振り回して、ひたすら標的にダメージを与えるアタッカー役なんだが……。
「み……見えないっすね……」
「そお? これでも昔はムキムキだったのよ。」
「ま、またまたぁ……」
信じられん。
剣なんて持てるとは思えない細腕だし、ムキムキというより、ムラムラする魅惑のスタイルなのに……。
「なに? 信じてくれないの?」
「いや、そういうわけじゃないですけど……」
「なんなら、勝負してみる?」
ドンと音を立てて、ハンナさんが右肘をテーブルに置いた。
腕相撲をしようってことか。
受けて立とうじゃないの。
「いいですけど、手加減しませんよ?」
「んふふ、いいわよ。製作職に負けるなんてありえないもの」
挑発的に言われて、俺も少々カチンときた。
全力で、やってやろうじゃないの。
ぐっと右腕に力を込めて、身体強化スキルを発動させる。
「あらぁ、不撓不屈ね。ちょうどいいハンデだわ。私は何も使わないでおいて、あ・げ・る」
「ぐぬぬ、舐めないでくださいよ!」
いくら製作職とはいえ、こちとらレベル100だ。
アマゾネスは二次職だから、最大でも60レベルまでしかない。
これだけの差があって、強化スキル抜きだと言うなら、負けるはずが無い。
俺も右肘をしっかりとテーブルに置いて、ハンナさんの手を握る。
「あら? ちょっとは期待できそうね……ふふ……」
戦いには不向きな製作職の俺と比べても、ハンナさんの腕は細い。
引退してから相当経つんだろうな。
正直、負ける気がしないぜ。
「じゃ、いくわよ。せーのっ!」
合図と同時に、激しい音を立ててテーブルが砕け散った。
強烈な痛みとともに、俺の手が床に叩きつけられる。
骨が砕けてないのは、ギリギリで手加減してくれたからだろう……。
「いってええええ!」
「あはははは、なんだ、全然大したことないわね」
「うぅ……完敗です……」
「ほらほら、こっち来なさいよ。久々に全力出して気分が良いわ」
高らかに笑いながら、ハンナさんは隣のテーブルに移動する。
ジョッキで酒を持ってくるのが面倒になったのか、蜂蜜酒のタルを2つ抱えていた。
うん、勝てるはずないわ。
あの細腕のどこに、そんな力があるんだよ。
アマゾネス怖い……。
「んで? カリンを治してくれたスキル……ええっと、なんだっけ」
「温泉、ですか?」
「そう、それ! そんなスキル聞いたことないわよ」
「グランドマイスターになって、レベル100になると覚えられるんですよ」
「あー、そうなんだ……って、100!?」
「はい、100です」
ハンナさんは目を丸くしている。
「ごめんなさい。80はいってると分かってたけど、まさか100とは思わなかったわ……」
「まあ、普通はそこまでいかないですからね……」
「で、そのスキル”温泉”っての、見せてもらえる?」
「いいですよ、魔石はありますし」
ハンナさんの案内で、宿屋の奥に行く。
石造りの広い部屋があり、岩をくり抜いた浴槽があった。
「ここね、お風呂場だったの。井戸から水を汲み上げて、薪で沸かしてたんだけど、今は使ってないのよね。旦那がいた頃は、全部やってくれてたんだけど、死んじゃったからね。私は宿と酒場で手一杯だし……」
「そうだったんですね……」
「前に魔竜が暴れたときに、旦那も討伐戦に参加したんだけど、帰ってこなかったんだわ」
ああ、スカーレット戦記の大規模アップデートだった魔竜討伐か……。
こっちはゲームとして楽しんでいたけど、ハンナさんはそういうわけにはいかなかったんだなあ。
ちなみに旦那さんはグラディエーターという、男の戦士系の二次職、いわゆる脳筋アタッカーだ。
その脳筋二人から、あの可愛らしいカリンが生まれたなんて信じられない……。
「ごめんなさい、しんみりさせちゃった。とりあえず、見せてよ」
「はい、分かりました」
俺は浴槽に向けて、魔石を構える。
スキルを発動すると、青白く光るお湯がみるみるうちに浴槽を満たしていった。
「うわぁ、すごい! へえ、本当にお湯が出るんだねえ」
「この魔石はグレードDなので、そこまで強力じゃないですけど、たいていの傷は治りますよ」
「ほんと? ちょっと入ってみようかな」
「えっ! ハンナさん!? わっわっ! 待って」
ハンナさんが豪快に服を脱ぎ始めたので、慌てて後ろを向いた。
一瞬見えちゃったけど、すごかった……とてもすごかった……大きかった……。
「あー、すごいわ、これ。疲れなんて一瞬で吹き飛ぶわねー」
「そうですね。スッキリすると思います……」
ハンナさんがすぐそばで裸に……見たい! 見たいけど、ダメだ! 我慢だ!
「んー、これいいわねえ。ねえ、リクさんも入りなさいよ」
「えっ? ちょっ、ハンナさん! まって……あぁぁ……」
ハンナさんに力で敵うわけもなく、あっという間に服を脱がされて風呂に引きずり込まれた。
お湯の温かさ……ハンナさんの柔らかさ……ああ……極楽ぅ……。
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