38.新たな仲間
「リク殿、ライザ殿、先ほど、族長から指示を受けた。エルフの一族が移住するのとは別に、私はリク殿に同行するようにとのことだ」
急にかしこまった表情で、ティルダが言った。
「おお、それはありがたい。大歓迎だよ」
「強力な仲間ができたわね」
ティルダと握手を交わし、歓迎の意を伝える。
弓のスペシャリストであるティルダがいてくれれば、非常に心強い。
ハヅキと合わせて、物理の遠隔攻撃で優位に立てる。
俺の仲間たちも、だいぶバランスが良いパーティーになってきた。
壁役のローザ、近接アタッカーのハンナさん、遠距離物理はハヅキとティルダ、この二人は状況に応じて近接アタッカー役もこなせる。
魔法攻撃はライザ、自衛もできる回復役がルビー。
これだけの面子が揃えば、シェリルたちも連れて行って経験を積ませられる。
「リク殿のおかげで、世界樹は救われた。これで我らも全力で戦うことができる。リク殿のお役に立てるよう、身命を賭して……」
「待った。ティルダ」
真面目な顔でまくしたてるティルダを遮る。
「これからは仲間なんだ。そんなに堅苦しくしなくていいよ。俺のことも、リクと呼び捨てでいい」
「そうよ。私のことも、ライザって呼んで」
すると、ティルダはにっこりと微笑んだ。
「分かった。リク、ライザ、よろしくな」
どこか取っ付きにくかったティルダの態度が和らぎ、可憐な笑顔を見せてくれた。
「ところで、リク。一つ教えてもらいたいことがあるんだ」
「おう、なんだ。何でも聞いてくれ」
「世界樹で、不思議な水を出しただろう? 温かく心地良い水。ダークエルフのナターシャを生き返らせた、ものすごい力だった。あれはいったい何なんだ?」
「そうか、ティルダには説明していなかったな」
あのときは、バタバタしていたからな。
「俺のスキル”温泉”の効果だよ」
「オンセン?」
「ティルダは……というかエルフは風呂に入らないのか?」
「フロ?」
ティルダはきょとんとした顔をしている。
エルフには入浴の習慣が無いのかな。
「えーっと、どう説明したものかな」
「ねえ、ティルダ。汗をかいたとき、水浴びはするでしょ?」
困っていたら、ライザが助け船を出してくれた。
「ああ、もちろんだ。森の奥の川でな」
「その水浴びと同じような感じで、私たちは温かいお湯をためて入るのよ。それがお風呂」
「ほう、なるほど。興味深いな」
ここは一つ、提案してみるか。
「もし良かったら、一緒に入ってみるか?」
「お風呂とやらにか? いいぞ」
「よし、じゃあ、すぐ準備するから、見ててくれ」
手近な窪みを探し、スキル”温泉”を発動する。
せっかくなのでルロナの魔石を使ったら、きれいな薄緑色のお湯が噴出した。
「おお、これは! 世界樹のときと色が違うぞ?」
「ルロナ様にもらった魔石を使ったんだ。エルフにはきっと良い効果があると思うぞ」
「なんと……森の女神様のお力が……」
ティルダは神妙な表情で祈りを捧げながら、お湯をじっと見つめていた。
「よし、溜まったぞ。早速入ろうか」
「新しい効果、楽しみー」
とくに意識もせずに脱ぎだす俺たちを見て、ティルダが目を丸くした。
「えっ! なんで脱ぐんだ? 何をしてるんだ?」
「何って、風呂は裸で入るものだぞ」
「そうよ~。うわぁ、気持ちいい~」
さすがに丸出しはためらわれたので、タオルを取り出して腰に巻き付ける。
ライザはまったく気にせず、ざぶんとお湯に飛び込んでいった。
「ほら、ティルダもおいでよ。気持ちいいわよ」
「こっ、このままじゃダメなのか!?」
「お風呂は裸の付き合いよ。気にしないで入ってらっしゃいな」
「そう言われても……。リク! 私はどうすればいいのだ!?」
ここで俺に決定権を渡してしまったか。
せめて下着姿とも思ったが、ティルダは穿いていないからな。
諦めて、脱いでもらったほうが、お湯の気持ちよさも体験できるだろう。
「まあ、俺のパーティーに入れば、夜はコレだよ。一緒に入って疲れを癒やし、親睦を深めるんだ」
「男女一緒にか!?」
「ああ、そうだ。と言っても、男は俺しかいないけどな」
「リクのことは、空気だと思えばいいわ。女ばかりだから、慣れたら気にならないわよ」
「そういうものなのか。なんとも、変わった習慣だな……」
ティルダはタオルを受け取り、木陰に隠れて服を脱いでいる。
下を穿かないであれほど暴れまわっていたけど、こういうときは別なんだな。
しばらく待っていたら、タオルを体の前に垂らしたティルダが、真っ赤な顔をして出てきた。
「うぅ、これは勇気がいる……。ライザ、よく平気だな」
「んー? ふふっ、恥ずかしいのも最初だけよ。堂々としてればいいの」
「そ、そうか……分かった。努力しよう……」
タオルの上から胸元をぎゅっと押さえ、ティルダがお湯に入る。
「ん……。湯に浸かるなど、初めての経験だが、これは心地良いものだな」
「でしょー。遠慮しないで、肩まで浸かって、足を伸ばしてみなよ。気持ちいいよー」
「こうか……? ああ……体に染み渡るようだ……」
すらりとした足を伸ばし、ティルダが肩まで湯に浸かる。
ためらいがちにタオルを外して、ティルダは目を閉じた。
「これはすごい……。疲れも何もかも消えていく……」
「最高のお湯ね。んー……気持ちいい……」
両隣で、ライザとティルダが、ゆったりと体を伸ばしている。
うむ、絶景かな、絶景かな。
類まれなる美女エルフと、森の露天風呂で混浴とは最高じゃないか。
「なんか不思議な感じ……体に力が溢れてくるみたい」
「ああ、すごい……。ルロナ様の息吹を感じられる」
「今ならいくらでも魔法撃てそうよ」
「そうだな。体が軽い。神経も研ぎ澄まされていく」
二人の肌に、薄緑色に輝くオーラがかかっていく。
気づくと、俺の体にも同じ効果が現れていた。
これは興味深い発見だ。
ルロナの魔石でスキルを使うと、また違う効果があるということか。
まるで、温泉の効能の違いみたいだな。
「今宵は寝ずの番だったが、むしろ昼間よりも元気になってきた。リクのスキルはすごいな」
「どう? ティルダ、お風呂っていいものでしょ」
「ああ、最高だ。これなら毎日でもいい。リク、毎日でもいいのか?」
「もちろんだよ。入れるときは、いつでもいいぞ。それに、始まりの街に戻れば、この数倍ある大浴場に入れるぞ」
「なんと! 素晴らしいな! ぜひ入りたいものだ」
静かな森の中に、笑い声が響く。
こうして、エルフのティルダが、新たな仲間として加わった。
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