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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
三章 救え! 世界樹!

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37.プレイヤーキラー

 その夜、エルフの村は穏やかな静寂に包まれていた。

 世界樹の実を持ち帰ったことで、イーリスもついに決断をしてくれた。

 村の住民を率いて、始まりの街への移住を始めるのだ。

 村の中央にある女神ルロナの聖堂で、エルフたちは祈りを捧げながら、別れの儀式をしている。


 夜更け、村の郊外の窪地に、ライザを呼び出した。

 他のみんなは、与えられた小屋で休んでいる。

 ダークエルフのナターシャは、精神的な消耗が激しく、ルビーがつきっきりで看護していた。

 僅かな時間で話を聞いたが、ナターシャが覚えていたのは、黒ずくめの男の姿だけだった。

 長い耳と同じ肌を持っていたそうなので、おそらくダークエルフと思われるが確証はない。


「すまないな、夜中に」

「いいわよ。ナターシャの、いえ、ネクロマンサーのことよね」

「ああ、そうだ」


 暗がりの中、草むらに座って話している。

 聞こえてくるのは木々のざわめき、夜空には明るい月が浮かんでいた。


「もう一人いるのね」

「そうとしか考えられない。ネクロマンサーはプレイヤー専用の職業だからな」

「それも、ダークエルフの専用職ね」


 ゲーム中では、対人戦にとてつもない力を発揮し、恐れられていた職業だ。

 倒した相手をアンデッドとして蘇らせ、一定時間操るスキルが強力だった。

 自らの魔法力も半端なく、生半可なプレイヤーでは歯が立たない。

 力が大きい分、ネクロマンサーに転職する道は険しく、ゲーム中では数人しか心当たりがいない。


「俺たちと同じように、この世界に転生していたということだろう」

「どうやら、味方になるような相手ではなさそうね。ナターシャを殺したのも、ネクロマンサーだとすると納得はいくわ」

「それにしても、ダークエルフを、それも相当な人数を殺すだなんて、まともな思考じゃない」

「ほんとね。まさか全員というわけじゃないと思うけど……」

「いくらなんでも、生き残っているダークエルフがいるはずだ。彼らの力を借りる必要がある」

「ねえ、ネクロマンサーをしていたプレイヤーに心当たりはある?」


 顎に指を添えて考えてながら、ライザが尋ねてくる。


「うーん、俺はあまりパーティー組まなかったし、対人戦もやってないからなあ……」

「そっか。私は対人戦目的の同盟に入ってたけど、交流のあったプレイヤーで、そんな酷いことをする人は……」


 ハッと顔を上げたライザが、声を潜めた。


「ねえ、血染めのレン、っていうプレイヤー、知ってる?」

「あっ、いたな! 迷惑プレイヤーでアカウント消されたやつだろ」


 スカーレット戦記がサービス開始して間もない頃、迷惑行為が横行したことがあった。

 PKプレイヤーキルという、プレイヤーが他のプレイヤーを攻撃する行為が多発したのだ。

 ゲームの仕様上、PK行為は容認されていて、一種のロールプレイであるという見方もできる。

 だが、普通に遊んでいる人にとっては、迷惑極まりない行為だった。


 PKは一定のペナルティがあり、衛兵に攻撃されるようになり、街の施設やギルドを利用することができなくなる。

 また、通常は白文字で表示されるプレイヤー名が、通称赤ネームと呼ばれる赤い文字になり、PKプレイヤーであることがひと目で分かるようになる。


 PKプレイヤーが他のプレイヤーに攻撃されて倒されると、装備している武器防具やアイテムをドロップしてしまうため、代償のある行為なのだ。

 そして、PKを繰り返していると、赤ネームが直ることがなくなり、徐々にプレイヤーの姿が返り血を浴びたように真っ赤に染まっていく。


 PK自体はゲームの仕様上可能な行為なので、厳正な対処は行われない。

 ただ、度が過ぎると話は別だ。

 サービス開始から一年ほど経った頃、厄介な同盟が誕生する。

 PKすることだけを目的にしたプレイヤーが、数多く集っていた。

 その同盟を率いていたのが、血染めのレンと呼ばれるネクロマンサーだった。


 超絶廃人プレイで一気にレベルを上げ、赤ネームのペナルティも構わずに、初心者、上級者問わずに、執拗なPKプレイを繰り返していた。

 累積ペナルティで、消えることのない返り血を浴びたプレイヤーのため、血染めのレンと呼ばれて忌み嫌われたのだ。


 大規模で執拗に粘着するPKプレイに辟易し、ゲームを離れるプレイヤーが続出したため、運営会社も決断をせざるを得なくなる。

 血染めのレンを始めとした、PK同盟プレイヤーのアカウントを永久凍結したのである。


 その後、スカーレット戦記では、PK行為のペナルティが大幅に強化された。

 また、プレイヤー同士の同盟戦が実装され、対プレイヤー戦を安全に楽しめるようになったことで、PKをする者は激減していった。


「しかし、あいつが活動していたのは相当前の話だぞ」

「でも、そんなことするプレイヤーなんて、他にいないと思う」

「うーん。十年近く前のプレイヤーだからなあ。だけど、ライザの言うことにも一理あるか」

「そんなやり方するような人、あの人以外に考えられないわ」


 ダークエルフを操っているのがレンだとすると、その実力は侮れない。

 物事を慎重に進めていく必要があるだろう。

 万が一、こちら側の種族に犠牲者が出たら大変だ。


「どうにか手がかりが欲しいな。俺のスキルが効果的なのも分かったし、一気に救うことができれば……」

「そうね。でも、急いては事を何とやらって言うじゃない。まずはできることからやっていきましょ」


 ライザが、スッと俺に寄り添ってくる。

 月明かりの下で、二人のシルエットがそっと重なって……。


「おっ、すまん。取り込み中だったか」


 木陰からティルダが姿をあらわし、俺たちは慌てて体を離した。


「どうしたんだ? 儀式はもう終わったのか?」

「朝まで続く。あんなことがあった後だ。見回りを欠かすわけにはいかないからな」

「そうか、大変だな」

「いや、それが私の役目だからな。ところで……」


 俺をチラチラと見ながら、ティルダが口籠る。

 割とズケズケ言うタイプなのに、どうしたんだろう。

 密会してたとでも思われて、変な誤解されてしまったか。

 ライザと顔を見合わせながら、いったい何を言われるのかと身構えた。

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