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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
三章 救え! 世界樹!

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34.エルフの族長 イーリス

「ここが族長の屋敷だ」


 村の中央にある巨木。

 はるか上に、木で作られた家が見える。

 下は広場のようになっていて、噴水やベンチが置いてあった。

 普段は、エルフが集う憩いの場となっているところだ。


「村の者たちは、各自の家で祈りを捧げている。そうすることで、かろうじて世界樹を維持しているんだ。これまでいただいていた力を世界樹にお返しすることで……」


 苦渋に満ちた表情で、ティルダが話してくれた。

 それでは、エルフの生命力そのものを犠牲にしているということじゃないか。


「族長様にお伺いを立ててくる。ここで待っていてほしい」


 ティルダが巨木の陰に消えた。

 俺たちは広場のベンチに腰掛け、しばし休息をとる。


「久しぶりの故郷……って言いたいところだけど、なんだか寂しい風景ね」


 エルフでプレイを始めたライザは、序盤の拠点がエルフの村だ。

 本来であれば、エルフが美しい歌声を奏でている、神秘的な風景だったはずだ。


「ライザお姉ちゃんは、ここで育ったの?」

「んー、まあ、そんなところね」


 ルビーの質問に、ライザは苦笑いをして答える。

 仲間に隠し事をするのは微妙な気分だが、なんとも説明のしようがない。

 ハヅキとカリンは、辺りの景色を眺めて話をしていた。

 ローザはじっと腕組みをして、目を閉じている。


「お許しが出た。リク殿、私と一緒に来て欲しい。他の方々は、ここで待っていてくれ」


 ティルダに案内され、巨木の裏側に回る。

 そこには、真っ直ぐ樹上に伸びるハシゴが取り付けられていた。


「ここを登る。ついてきてくれ」

「えっ!? ティルダのあとに登るのか?」

「ん? 何か問題があるのか?」

「いや……うん、ティルダがそれでいいなら……」

「変なことを言うんだな」


 ティルダは俺を一瞥し、さっさとハシゴを登り始めてしまう。

 慌てて後に続くが、このまま上を見たら……。


「神様……ありがとうございます……」


 ティルダは、はいていない。

 ゆえに、絶景が目の前に広がっていた。


「なんだ、リク殿。高いところは苦手か? 腰が引けているぞ」


 俺を見下ろしたティルダが、バカにしたように笑っている。

 なんと思われても構うものか。

 この光景は、しっかりと目に焼き付けておきたい。


「族長様、お連れしました」


 登り切ると、木の扉がある。

 軽くノックをして、ティルダが中へ入った。

 先程の絶景を反芻しながら、少し腰を引き気味で後に続く。


「ようこそ、エルフの村へ」


 輝くような笑顔の女性が出迎えてくれた。


「エルフの族長、イーリスと申します。お見知りおきを」

「初めまして、リクです。よろしくお願いいたします」


 薄緑色のローブを身にまとった、とても美しい女性だ。

 おっとりした顔立ちで、落ち着いた声色、輝く金髪はゆるいウェーブを描いている。

 アメリエットさんと似た雰囲気の、素敵な女性だな。


 差し出された椅子に腰掛けると、イーリスがお茶を淹れてくれた。

 ハーブの香りが漂う、温かなお茶だ。

 一口すすると、ふわりと爽快感が広がる。


「これは美味しいですね」

「ふふっ。妖精が育てた薬草を調合したものです。疲れがとれますよ」

「すうっと体にしみるような……素晴らしい味です」

「ありがとうございます」


 ティルダは、無言でイーリスのそばに控えている。


「さて、こちらにはアメリエットの使いでいらしたとか」

「はい。実は……」


 始まりの街で起きた出来事を、かいつまんで説明した。

 この世界がゲーム世界であることは伏せ、仲間たちに話した内容と同じである。


「なるほど……。アメリエットは大丈夫なのですか?」

「はい、俺のスキルで、なんとか命をつなぐことができました」

「そうですか。我々も力をかなり失っております。人間の街で起きたように、我々の村から旅立ったエルフたちも、存在を感知できなくなってしまったのです」


 人間族と同等、いやそれ以上に、エルフを選ぶプレイヤーは多かった。

 ここでも、その影響が出ていたか。


「あらかたのお話は分かりました。ですが、私たちは世界樹を離れて生きていくことはできないのです。いま、ここを離れれば世界樹は滅び、同時に私たちも命を失ってしまう」


 イーリスの顔が暗く沈む。


「リクさんは、女神ルロナ様の魔石をお探しとか。ルロナ様は世界樹と一心同体。世界樹が無事であれば、力にもなれたでしょうが……」

「世界樹に、いったい何が起きているのですか? 森がすっかり変わってしまって」

「ダークエルフの仕業です」


 世界樹はエルフの結界が張られていて、他種族が近づくことはできない。

 ダークエルフであれば、結界を破壊や無効化する方法があってもおかしくない。


「エルフとダークエルフは、不仲だと聞きましたが、そこまで……」

「不仲……そうですね。一時期は、過去の対立を忘れ、共闘していた日々もありました。しかし、また元のように……」


 そうか、ゲームの中では、エルフもダークエルフも、プレイヤーが選ぶことができる種族だ。

 設定上では不仲であっても、プレイヤー同士は関係なく交流をしていた。

 それが、サービス終了と同時に、元の関係性に戻ってしまったということか。


「彼らが世界樹を狙うのは、以前から変わっていません。我らも変わらず、世界樹を守っていくのみ。しかし、ここ最近、彼らの力が異様に強くなってしまったのです」

「奴らは……死なぬのだ!」


 悔しげに拳を握り締め、ティルダが声を荒げた。


「死なない? それは……」

「文字通りの意味だ。我らとて、無益な殺生はしない。世界樹から追い払えれば良いのだからな。しかし、やむを得ないときは、命を奪うときもある。それが……」


 ティルダの肩が、ぶるっと震えた。


「矢を撃ち込んでも、魔法で吹き飛ばそうとも、奴らは変わらずに押し寄せてくる。何をやっても、決して死なないのだ」


 青ざめた顔で、ティルダが話す。

 相当の恐怖だったのだろう。


「森の番人たちが無事だったのは幸いでしたが、世界樹に取りつかれてしまったのです」


 イーリスはティルダを気遣いながら話してくれた。

 死なない、とはどういうことだろう。

 なにか、召喚や幻影の類だろうか。


「我々も、相当の戦力になると思います。一度、世界樹まで案内していただけませんか」

「しかし、危険ですよ」

「承知の上です。それに、世界樹を救わなければ、エルフは滅んでしまい、女神様の魔石も見つからない」

「そのとおりですね。我々では力不足でしたが、あなた方の力を借りれば、なにか突破口が開けるかもしれません」


 イーリスは一つ頷き、すっと立ち上がった。


「ティルダ、彼らを世界樹に案内してさしあげなさい」

「かしこまりました」


 ティルダは膝をつき、深く一礼する。


「森の番人で、まともに動けるのはティルダのみです。残りの者は重傷を負って伏せております」

「ティルダがきてくれるのであれば、こちらとしても心強い。ティルダの実力は分かっておりますので」

「エルフ最強の戦士です。きっとお役に立つでしょう」


 イーリスと俺に褒められ、ティルダの頬が少し赤らんでいる。

 普段がクールだから、少し新鮮だ。


「では、早速お願いしたい。事は急を要します」


 こうして、俺たちは世界樹へと向かうこととなった。

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