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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
三章 救え! 世界樹!

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33.森の番人 ティルダ

 うっすらと空が白み始める頃、エルフの森の付近に到着した。

 夜通し飛んできたローザのため、木陰で軽く仮眠を取る。

 目が覚めると、素晴らしい快晴が広がっていた。

 そして、俺たちは驚愕の光景を目の当たりにする。


「なんだ、これ……」


 記憶にあるエルフの森は、深い緑に覆われた、果てしない広さの森だった。

 生命力に満ち溢れ、年中緑が失われることはない。

 しかし、その緑がどこにもなく、地面には枯れた葉が大量に降り積もっている。

 枝だけが広がった木々が、悶え苦しむ死者のように天に伸びていた。


「そんな、いったい何が起きているの」


 ライザも口元を押さえて、変わり果てた森を見つめている。

 エルフとしてゲームをプレイしていたライザは、序盤をこの森で過ごしていたはずだ。

 俺よりも馴染みが深く、ショックは計り知れないだろう。


「アメリエットさんの言っていた、世界樹の異変というのが原因なんだろう」

「ひどいな、生命力のかけらもない」


 騎士の姿に戻ったローザも、腕組みをしながら厳しい顔になっている。


「カリン、ルビー。何があるか分からない。俺の後ろに……ぬぉっ!?」


 何かの気配を感じ、槍を振り回す。

 カッと音がして、矢が弾き飛ばされた。

 あぶねえ、まったくもってマグレだ。

 冷や汗が、ドバッと流れ落ちる。


「何者か! この森はエルフの地。勝手に近づいてはならぬ!」


 女性の澄んだ声が、辺りに響く。

 しかし、どこにいるのか、姿は見えない。

 木の陰で、巧妙に隠れているようだ。


「くっ、こんなところで襲ってくるなんて!」


 ライザが急いで詠唱をし、風の精霊の加護を張る。

 同時に、弓を構えたハヅキが、瞬速の足捌きで森に飛び込んでいった。


「ハヅキ! 無茶するな!」

「ご主人さまを狙うなど、不届き至極!」


 怒りに燃えたハヅキが、木陰に向けて幾本もの矢を放つ。


「ほぅ、少しはやるようだな。では、これならどうか」


 木陰から黄色い光をまとった矢が、ハヅキに向かって放たれた。

 軽いステップでかわしたハヅキだが、背後に流れた矢が軌道を変えて背中に向かう。


「ハヅキ! 後ろだ!」


 既にそれを察知していたハヅキは、ひらりと宙返りをして避けた。

 だが、二の矢、三の矢が放たれ、その全てがハヅキを追い続ける。


「こんなもので!」


 弓を刀へと変化させ、襲いかかる矢を切り払う。

 再び弓へと戻し、今度はハヅキが矢を放った。

 ハヅキの怒りをあらわすような、赤いオーラをまとった矢が、隠れている襲撃者に向かっていく。


「むっ! たぁっ!」


 ひときわ高い木の上から、エルフの女性が飛び降りてきた。

 緑を基調とした軽鎧を身に着けた、金髪の美しい女性だ。

 華麗に宙返りをし、短いスカートをはためかせて着地する。


「うわっ!」

「どうしたの? なんかヤバい?」


 思わず声を上げた俺に、ライザが聞いてくる。


「ああ、ヤバい……」

「なにがヤバいの? ハヅキ負けちゃう?」

「いや、あのエルフの子……パンツ穿いてない……おぶっ!」


 即座にライザのボディーブローを喰らい、ルビーには脛を蹴られ、カリンに脇腹をつねられた。


「バカ! 真面目にやりなさい!」

「はい……すみません……」


 この高速戦闘の最中、一瞬のチラを捉えた俺の視力を褒めてやりたい。

 とても素晴らしい眺めだった。

 だけど、余計なことを言うと、しばかれるので黙っている。

 大丈夫、ハヅキなら心配いらない。


「やっと姿を見せましたね」

「ふんっ、お前なぞに負けるかっ!」


 今度は、火花を散らしながらの接近戦だ。

 ハヅキは刀、エルフは短剣。

 エルフの攻撃速度は半端ないが、ハヅキは双刀を自在に操り、少しずつ追い詰めていく。

 双方、武器を振るのが見えないほどの、超高速戦闘だ。


「どうしました。動きが鈍っていますよ」

「くそっ、体が万全なら、お前などに……うあっ!」


 キィンと甲高い音が響き、エルフの短剣が跳ね飛ばされた。

 間髪入れずに、ハヅキがエルフの首筋に刀を当てる。


「終わりです。観念なさい」

「くっ、殺せ……」


 いやいや、エルフと敵対しに来たわけじゃない。

 慌てて二人のところに走った。


「待ってくれ。俺たちは敵じゃない」


 アメリエットさんの指輪を、エルフに見せる。


「これは! 大賢者アメリエット様の!」

「俺たちは始まりの街から来ました。アメリエットさんから、世界樹に異変が起きているのではと言われたからです」

「そうだったのか。すまん……。森が変わり果ててしまい、エルフは危機に瀕している。後先考えずに襲ってしまったこと、謝罪する」


 目配せをすると、ハヅキが刀を納めた。

 エルフは立ち上がり、深々と頭を下げる。


「私はティルダ。森の番人、フェアリーレンジャーだ」


 おお、ものすごいレア職だ。

 エルフでは珍しい、ゴリゴリの戦闘特化職だ。

 魔法に使う魔力を戦闘に取り入れているので、先程のような相手を追尾する矢を放つこともできる。

 フェアリーの名を冠しているように、妖精の力を借りて自身を強化することもできるのだ。


「いったい何が起きたのか、話していただけますか」

「うむ。まずは族長に会っていただこう。大賢者様の御印を持つ方々だ。我々としても、この窮地の打開策が欲しいところ。ついてきてほしい」


 ティルダの後に続き、森の奥へと向かう。

 森の入口のほうは木々が枯れ果てていたが、奥に進むとまだ葉が残っていた。

 だが、木々から生命力は感じられず、枯れていくのも時間の問題だろう。

 歩いている間にも、葉がひらりひらりと宙を舞っている。


「気をつけてくれ。森の魔物が力をつけている。妖精の加護を張っているが、あまり離れないようにな」


 ティルダの言葉どおり、魔物の気配が濃い。

 世界樹が力を失ったぶん、魔物のレベルも上がっているようだ。

 木々の間を駆け抜け、空を舞う姿が見える。


「ここが入り口だ。私の周りに集まってくれ」


 森の奥で、ぽっかりと開けた平地があった。

 ティルダの傍に寄ると、花のような香りが漂ってくる。

 辺りに、光り輝く妖精が、ふわふわと舞っていた。

 ティルダを中心にくるくると周り、可憐な声で歌っている。


「おぉ……」


 地面に円形の魔法陣が浮かび、眩い光に包まれた。


「ここがエルフの村だ。族長の家に行く。ついてきてくれ」


 柔らかな草地、鳥の囀る声が聞こえる木々、さらさらと流れる小川。

 ゲームの頃は何度か来たが、こうして実際に足を踏み入れると感慨深い。

 エルフは、樹上に家を造って住んでいる。

 あちこちから、俺たちを値踏みするような視線を感じた。


「世界樹の力で、かろうじて村は守られている。だが、時間はあまり無いだろう」


 ティルダが、遠くに見える世界樹を指差した。

 天をつくようにそびえ立つ、大きく枝を張ったドーム状の大木。

 この距離でも、癒やしと守りの力を感じられる。

 気を引き締めて、ティルダの後に続いた。

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