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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
三章 救え! 世界樹!

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31.アメリエットの異変

 まどろみの湯を開業して、しばらくの月日が経った。

 市街地の建設ラッシュはまだ続いていて、人間族とドワーフが住むようになった始まりの街は、新たな賑わいに包まれていた。

 俺は毎日のように番台に座り、次々と来るお客さんの相手をしている。

 大規模な銭湯となったので、ダムニスから移住してきた人や、ドワーフの女性たちを雇って、建物内の清掃や洗濯を頼んでいた。


 中でも頼りになるのは、ゴルドンの奥さん、シルヴァさんだ。

 ルビーのお婆ちゃんなわけだが、見た目はほぼ変わらない。

 反則的な童顔と見事なお胸をお持ちの、素晴らしい働き手だ。

 亀の甲より年の功とはよく言ったもので、掃除に洗濯、炊事と何でもこなす。

 長年ドワーフを束ねてきた経験もあり、働き手の勤怠管理や経理的な仕事まで安心して任せられる。

 今では誰よりも頼りになる、まどろみの湯には欠かせない人物となっていた。


「いらっしゃいませー」

「こんばんは、リクさん」

「おっ、珍しいですね。こんばんはー」


 だいたいのお客さんが帰り、もうすぐ閉店という頃合いに、冒険者ギルドのコーデリアさんと、魔法学院のアメリエットさんが訪れた。

 心なしか、アメリエットさんの顔色が良くない。

 コーデリアさんに肩を支えられている。


「遅い時間ですけど、大丈夫ですか?」

「はい、もちろん。どうされました?」

「会議中に、アメリエットさんの様子が……。こちらのお湯で、回復をと思いまして」

「それは大変だ」

「すみません……ご迷惑を……」


 アメリエットさんの額に汗が浮かんでいる。

 相当、具合が悪い様子だ。

 コーデリアさんが支えていないと、今にも倒れてしまいそうだ。


「シルヴァさん! 番台頼みます!」

「あいよ、早く連れてっておあげ」


 阿吽の呼吸でシルヴァさんと持ち場を代わり、アメリエットさんを脱衣所の奥に連れて行く。

 男女ともに、脱衣所の横に傷病者用の個室を作っている。

 クエストで怪我をした冒険者や、病気になった人を癒やすためのお湯だ。

 コーデリアさんと協力して、アメリエットさんに浴槽へ入ってもらう。


「はぁ……少し楽になりました……」


 ゆったりと体を伸ばしてもらい、頭は俺が支える。

 流れるような金髪が湯の中に広がり、白い肌と相まって神秘的な美しさだ。

 蒼白だった肌に血色が戻り、頬にも赤みがさしてくる。


「アメリエットさん、いったいどうしたんですか?」

「急に力を奪われたような……。もしかすると、世界樹に何かが起きているのかもしれません」

「世界樹!? あの、エルフの村にあるという、世界樹ですか」

「はい。我々エルフの力の源でもあります。これほどになるとは、何か良くないことが……」


 いずれ、エルフに協力は求めに行かないといけない。

 これは、急いで旅立つ必要がありそうだ。


「アメリエットさんには、しばらくの間、冒険者ギルドの医務室で休んでもらいましょう。あそこなら、まどろみの湯にも通いやすい」

「そうですね。早速手配をしてきます」


 コーデリアさんが、ギルドに向かう。

 目を閉じていたアメリエットさんが、湯の中で身を起こした。


「すみません、ご迷惑を……」

「いえ、こんなときのために、俺はこの銭湯を作ったんです」

「女神様のお湯、素晴らしいですね。動けるようになりました」


 アメリエットさんの手を取り、浴槽から上がるのを手伝う。

 芸術品のようなスタイルに、目が釘付けになった。


「あの、じっと見られると恥ずかしいのですが……」

「すみません! あまりにお綺麗なので、つい」

「まあ、ふふふ。お上手ですこと」


 アメリエットさんにタオルを手渡すと、背筋がゾクッとなるほど色っぽい流し目を送られた。

 真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしく、慌てて後ろを向く。

 そんな俺を見て、アメリエットさんはクスクス笑いながら身支度をした。


「エルフは部外者を嫌います。リクさん、これを……」


 銀色に輝く指輪を、アメリエットさんが俺の手に握らせた。

 その動作一つ一つが美しく、艶かしくて見惚れてしまった。


「指輪を見せれば、私の仲間だと分かってくれるでしょう。お願いしますね、リクさん」

「は、はい! 任せてください! すぐに戻ってきますから、それまで養生していてくださいね」

「ええ、ありがたく。ただ、村の者たちは、私より深刻な状況にあるかもしれません。リクさんの力が必要になるはずです」

「分かりました。急いで出立することにします」


 こうして、束の間の休息は終わり、エルフの村へと旅立つこととなった。

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