30.異世界銭湯『まどろみの湯』
忙しい日々が、ようやく報われるときがきた。
まどろみ亭の移設が終わり、その後ろには巨大な建物が完成した。
異世界でオープンする、銭湯『まどろみの湯』である。
今日は、完成したばかりの銭湯に、初めてお湯を入れる日だ。
内覧会みたいな感じで、仲間うちだけで集まってもらった。
正面の門には『ゆ』と刺繍をした、大きな暖簾がかかっている。
みんなには、古くから伝わる文字で、聖なるお湯の意味があると伝えていた。
「いやぁ、すごいわねえ。うちの建物も手が入って立派になっちゃって」
「なんか、ワクワクするね」
ハンナさんとカリンは、感慨深げに建物を見回している。
まどろみ亭は、装いもあらたに酒場として営業を始め、銭湯に来たお客さんの食事や憩いの場となるのだ。
銭湯の名前は迷いに迷ったが、まどろみ亭で始めたものだから、そのまま名前をお借りすることにした。
まどろみ亭を移設したのは、これまでのハンナさんやカリンの頑張りを大事にしたかったからだ。
俺にとっても思い入れが深い場所だし、古びた内装も雰囲気があって良いものだ。
「ねー、早くお湯入れて。待ちきれないわ」
「そうですよ、師匠! どんなお風呂なのか楽しみです!」
ライザとシェリルは、今にも服を脱ぎだしそうになっている。
「まあ、焦らず焦らず。順番に見ていこう」
みんなを連れて、銭湯の入り口に向かう。
酒場から直通で行くこともできるし、正面の門から入ることもできる。
石畳の広いスペースに、木製の下駄箱、そしてスノコを敷いている。
「ここで靴を脱いで、中に入るよ」
脱衣所は分けてあるので、この世界の文字で男女を示す刺繍を施した暖簾をかけている。
現実世界だと、もうだいぶ少なくなってはいるが、昔ながらの銭湯を模した様式だ。
番台が中央にあり、風呂に入る人はお金を払う。
脱衣所には蔓で編んだ籠があり、衣服はそこに入れるわけだ。
「んで、ここを出ると洗い場だね」
ここまでが男女別だ。
洗い場の中央に、かけ湯用の丸い浴槽を作ってある。
この世界には、石鹸のようなものは無い。
だが、スキル”温泉”で出したお湯には、体中がつるつるすべすべになる効果があった。
しかも、老廃物や抜けた髪の毛なども分解してくれるので、お湯がいつまでも綺麗なのだ。
回復だけではなく、清潔面に関してもチート級で、風呂掃除はこのお湯を撒くだけでいいという手軽さだ。
このスキルがなかったら、こんな大きな銭湯を作ろうなんて思わなかった。
「それで、お湯はまだなのー?」
「まー焦らないで……って、もうみんな脱いでるのかい!?」
「当たり前じゃない。早くお風呂を試そうよ」
「そうだぞ、リク殿。焦らすのは良くない」
「もうみんな待ちきれないみたいよ」
ハンナさん、ローザ、そしてライザが、どこも隠さず堂々と立っている。
後ろを見ると、カリンとルビーがはしゃぎながら脱いでおり、恥ずかしがるアリサとコレットは、一足先に脱いだシェリルに急かされていた。
「はぁ……。もうちょっと、その、恥じらいをだな」
「いまさら何言ってんの。リクには散々見られてるじゃない」
ライザがそう言うと、みんな大笑いしていた。
「仕方ない。とりあえず大浴場を案内するから」
俺のあとに、みんながぞろぞろとついてくる。
肌色に囲まれて、非常に目のやり場に困ってしまう。
「大浴場は混浴だから、湯浴み着を用意するよ」
男性用はハーフパンツ、女性用は胸から膝のあたりまで覆う、ラップタオルみたいなものだ。
「うんうん、それなら混浴でも平気そうね。今日は、別にいらないわね」
飲む気まんまんで、ハンナさんは酒瓶を抱えている。
俺としては、着ていただいたほうが気持ちが楽なんだけどな。
「大浴場には、広い大浴槽が一つと、打たせ湯、寝っ転がってくつろげる寝湯を作ってある。スペースはまだあるから、今後の研究次第で、面白い風呂を作れればいいなと思ってるよ」
「おー、でっかいお風呂ー! 里のお風呂より広いね。すっごーい!」
はしゃぎながら走り回るルビーだが、一部分だけ大人顔負けなので、ぶるんぶるん揺れてとてもヤバい。
ハンナさん、ローザ、ライザ、コレット、そしてルビー、彼女たちは非常に揺れる。
カリンとハヅキ、シェリルも、なかなかのぷりんぷりんだ。
「なっ……なんですか? なにか言いたいことがあるんですか? ぶん殴っていいですか?」
体の前で手をクロスさせたアリサに、ジロリと睨まれた。
「いや、なにも……。アリサ、頑張ろうな」
「なにを頑張ればいいんですか! もう! リクさんのバカ!」
「俺はアリサもとても良いと思うぞ、うん」
「説得力ないです! でも……ありがとうございます……」
顔を真っ赤にして唇を尖らせながら、アリサがぴとっと抱きついてきた。
アリサはツンデレ風味なところがあるから、とても可愛らしいな。
大浴場には、男女別で入れる小さめの風呂も用意してある。
異性の目を気にせず、ゆっくり過ごせる場所もあったほうがいいと、女性陣から意見があった。
なにしろ土地がだだっ広いので、スペースは充分にある。
今後のことも考えての、巨大な建物というわけだ。
あとは、サウナと水風呂を開発中だ。
魔鉱石と炎魔法、氷魔法の組み合わせでいけるんじゃないかと、ゴルドンが言っていた。
完成したら、みんなに、『整う』ってやつを教えてあげるつもりだ。
「んで、この奥が、俺ら専用のお風呂になるよ」
大浴場の奥にある扉の先に、プライベートな風呂を作った。
この入口は、女神の魔石で結界を張り、仲間たちしか入れないようになっている。
石段を上がった先は、木々に囲まれた露天風呂なのである。
「うわぁ~、素敵じゃない!」
森に囲まれた中に、四角い岩風呂が一つ。
プライベート用ではあるが、二十人は余裕で入れるほどの広さだ。
今日は快晴なので、見上げれば青空が広がっている。
「こんな開放的なお風呂、すごいわねえ」
「ふむ、これは良いな。夜だと月を見ながら酒が飲めるんじゃないか」
「あら、いい考えね」
ハンナさんとローザは、いたく気に入った様子で、腰をかがめて浴槽を眺めている。
無防備に突き出された白桃が、陽射しを浴びて輝いているぜ。
「というわけで、お湯を入れたいと思います!」
女神の魔石を埋め込んだ魔鉱石が、この露天風呂の奥に設置されている。
そこから、各浴槽にパイプを伝ってお湯が流れる構造だ。
みんな、俺の周りに集まって、固唾を呑んで見守っている。
ずらりと並んだ9対のおっぱ……違う、そっちがメインじゃない、いや、メインなのか!?
「いくぞー! 湧きいでよ! ”温泉”」
女神の魔石に両手を当てて、スキルを念じる。
ゴボゴボと水音が立ち、みるみるうちに浴槽にお湯が溜まっていく。
エトリの力を借りた、最強の回復スキルの具現化だ。
見ていた仲間たちから、歓声があがった。
「わーい! お風呂ー!」
「わーいわーい!」
ルビーとシェリルがドボンと飛び込んでいる。
ハンナさんとローザは、肩まで浸かりながら酒瓶を回し飲みしていた。
「なんか、開放的すぎて、恥ずかしいですね」
「旅のときに入るのとは、また違う感じよね」
アリサとコレットは露天風呂に慣れないのか、端のほうで身を縮こまらせて入っていた。
「さー、リクも入ろうよ!」
「ご主人さま、お召し物を……」
「えっ、俺は別に……いや、ちょっと待って……いやーん!」
ライザとハヅキが、するすると俺の服を脱がせていく。
そこに、カリンが満面の笑顔で手を伸ばしてきた。
「リクさん! みんなで一緒に入りましょ!」
カリンに手を引かれ、お風呂に身を沈める。
ああ、いい湯だ……。
最高の露天風呂、そして女の子たちの素晴らしい眺め。
これからも、この世界のために、やらなきゃいけないことが山ほどある。
ただ、今ひとときだけは、ゆっくりと身を休めることにしよう。
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