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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
二章 銭湯建設計画

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26.職人の女神 エトリ

 不思議な、とても不思議な浮遊感だった。

 もし宇宙へ行って無重力を体験したら、こういう感じなのかもしれない。

 体の重さは感じられず、ただそこに浮いている。

 同じように浮かんでいたカリンを引き寄せ、互いの存在を確認するように抱き締めた。


「リクさん!」

「カリン、俺から離れるな。しっかり掴まっていろ」


 周囲を包んでいた虹色の光が、少しずつ弱まっていく。

 ゆっくりと体に重みが戻り、静かに着地した。

 虹色の光が消えると、一面の漆黒の世界。

 地に足が着く感覚が無ければ、宙に浮いている気分だっただろう。


「やっほー。ごめんね、まどろっこしくて」


 気づくと、目の前に女の子がいた。

 ドワーフに似た可愛らしい童顔で、背がとても小さい。

 肌が透けるほど薄手のローブなので、見た目にそぐわぬ立派な双丘がうっすらと見えている。

 おまけにあぐらをかいているので、色々とヤバい部分が今にも見えそうだ。

 なんとも、目のやり場に困ってしまう。


「君は……?」

「はいはーい。女神エトリさんだよー」


 この子が、エトリ?

 さっきまでの麗しい声とは真逆の、甲高いアニメ声……。

 女神っつうくらいだから、もうちょっと大人っぽい姿を想像してたんだけどな。


「ちょっと、あんた今、すっごく失礼なこと考えてなかった?」

「い、いや、そんなことはないです。女神エトリ様、お初にお目に……」

「あーあー、そういう固っ苦しいのはいいから。まあ、楽にしてよ」


 エトリがさっと手を振ると、ガラスのテーブルとソファが現れる。

 テーブルの上にはグラスと飲み物まで用意されていた。


「まー、座ってー。長い話になるからさ」

「は、はぁ……」


 呆気にとられているカリンと目を合わせながら、ソファに並んで腰掛ける。

 なんかこう、すごく神々しいシーンを予想していたんだが、拍子抜けとはこのことだ。


「まずはカリンちゃんのことからね。あ、これジュースだから安心して飲んで」

「ありがとうございます。あっ、美味しい……。なんかシュワシュワします」

「でしょー。リク君の懐かしい味だと思うよ。飲んでみて」

「いただきます。お、これは……」


 ものすごく飲み慣れた味、炭酸ジュースだ。

 なんでこんなものがと思いつつも、久々に味わう現世の味に懐かしさがこみ上げる。


「カリンちゃんはね、魔石の乙女って呼ばれる存在なの」

「えっと、どうして私なんでしょう」

「選ばれた、としか言いようがないわね。この世界で、封印された魔石を解放できるのは、カリンちゃんだけなの」


 封印された魔石というのは、いったいどういうことだ。

 その質問に、エトリは笑って首を振った。


「その話は、ちょっと後でしましょう。とにかく、カリンちゃんは魔石を解放できる。失われた力を取り戻せるのね」

「はぁ……、どうしてだか分かりませんが」

「そうね。それは私にも分からない。ただ、カリンちゃんの力は唯一無二のものだから、リク君が守護者として守っていかなきゃいけないわ」

「守護者ときましたか。まあ、今までもカリンを守ってはきましたが」


 すると、エトリは腕組みをしながら頷いた。


「そう。二人の出会いは必然だったの。この世界を救うためにね」

「救う……。何か大変なことが起きているということですか」

「ええ、そうよ。ダムニスのアレを見たでしょう」


 ダムニスの崩壊、あれと同じことが起きるということなのか。


「あの崩壊は、私たち女神も予知できなかった。我々の権限を超えた何かが起きている」

「そんな、女神の力を超えるものを、俺たちがどうにかできるとでも」

「できるかどうかは、やってみないと分からない。でも、あなたたちには、その力が秘められているの。ダムニスの崩壊は予想できなかった。それ以上に、始まりの街の発展も我々が予測できなかったこと。調和の取れていた世界で生まれた、異質な変化」


 エトリは神妙な顔つきで俺を見つめる。


「あの日、冒険者が消えた日。この世界は滅びに向かう運命だった。だけど、リク君が現れた。失われるはずだったカリンちゃんの命を救い、始まりの街で再び冒険者を集め始めた」

「俺は何も……。ただ、困っている人たちを助けようとしただけで」

「いいのよ、それで。始まりの街は、いまや世界の希望になりつつある。あの街をもっと発展させて、あらゆる種族が集える街にして欲しいの。それが、世界の崩壊に抗う第一歩。そのためには、リク君のスキルと知識が必要よ」


 ぶるっと体が震えた。

 俺に、そんな大それたことができるんだろうか。


「そしてもう一つ。冒険者が消えた日、私たち女神も封印されてしまったの。カリンちゃんには、世界のどこかにある、女神の魔石を解放してもらわなければならない。守護者であるリク君と一緒にね」

「それはどこにあるんですか?」


 カリンの問いかけに、エトリは困った顔になった。


「それがねえ、分かんないの。私はほんの少しだけ封印が緩かったみたいで、声だけは飛ばすことができたわ。だけど、他の女神たちは、存在を感知することはできても、どこに眠っているかは分からない」

「それじゃあ探しようがないじゃないですか」

「手がかりは、女神を信仰する種族ね。この先、始まりの街を発展させていくにつれて、きっと他の種族との接触があるはずよ」


 エトリは俺たちを安心させるように、ニコッと笑った。


「あなた達がドワーフの里に来たのも、街の発展のためだったでしょう? 私は好機と思って、カリンちゃんも呼び寄せたの。里に来るまでは、ひたすら名前を呼ぶしかできなかったけどね。こうして解放してもらったとはいえ、私の力は何か別の理によって制限されている。真の開放のためには、他の女神の力を合わせる必要があるの」

「他の女神とは、各種族の?」

「そうよ。人間族が信仰する、光の女神メナディース。エルフが信仰する、森と大地の女神ルロナ。ダークエルフが信仰する、冥界の女神ベナル。そして、巨人族が信仰する、闘いの女神センネリックス」


 目の前にいるエトリと合わせて、この世界で崇められる五柱の女神じゃないか。

 各種族が住んでいる地を訪ねるだけでも、相当な大冒険になる。


「ルロナ、ベナル、センネリックスは、おそらく彼らの信者が住む地域に眠っていることでしょう。問題はメナディースなの」

「光の女神は人間族が信仰している。それなら分かりやすい場所に……」


 そこで、俺はダムニスの崩壊に思い当たる。

 あそこにはメナディースを祀った大神殿があった。


「そう、リク君の思ったとおりよ。ダムニスの大神殿にメナディースはいたはずなの。だけど、あの崩壊で、メナディースが眠っていた魔石が消失してしまった。どこかにはいるはずなの。存在を感じ取れるから」

「そうですか……。でも、やってみるしかないんですよね」

「ええ、そうよ。リク君とカリンちゃんに託すしかない。お願いよ、この世界を救って」


 俺はカリンと顔を見合わせた。


「どこまでできるか分かりません。でも、頑張ってみます」


 真っ直ぐにエトリを見つめて、カリンは力強く言った。


「始まりの街の発展。そして、女神の解放か。とんでもないことになってしまった。俺の力が役に立つというなら、大好きなこの世界を守るためなら、精一杯やります」


 俺たちの返答に、エトリは微笑みを浮かべた。


「ありがとう。魔石の乙女と守護者よ。あなた達の未来に幸あらんことを」


 エトリはサッと片手を振る。

 すると、カリンがくたりと俺にもたれかかってきた。

 どうやら、意識を失ってしまったらしい。


「おい、カリン! 大丈夫か!」

「安心して。眠っているだけだから。ここからは、カリンちゃんには理解しきれない話になるからね」


 今までの話も充分に荒唐無稽だったが、まだ続きがあるというのか。


「さて、あなたにしか分からない話をしましょう。スカーレット戦記の元プレイヤーの、リク君」


 エトリの言葉に、俺は心臓が口から飛び出そうになった。

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