22.長老との会談
「おじいちゃ~~ん!」
「ルビィィィ!」
小柄な爺さんが、ルビーに駆け寄ってひしと抱き締める。
この人が、ドワーフの長老なのかな。
ルビーより少し背が高く、真っ白い髭が胸元まで垂れている。
雰囲気がジェラルドによく似ており、きっと普段は気難しいのだろう。
孫娘を前にデレデレになっている今は、ちょっと想像しがたいが。
「お爺ちゃん、お客さん!」
「む? これはこれは、遠路はるばる。孫を送っていただき感謝いたします。ドワーフの族長、ゴルドンと申しますじゃ」
「始まりの街から来ました、冒険者のリクです」
お辞儀を返し、ゴルドンに自己紹介をする。
「ゴルドン、久しぶりだね」
「おぉ、ハンナ。ちっとも顔を見せんで、寂しかったぞい」
「すまないね。娘が大きくなってからと思っていたんだ」
「こっちが娘さんか。若い頃のハンナにそっくりじゃのぅ。ほっほっほ」
カリンは恥ずかしそうに頬を赤らめ、ゴルドンにお辞儀をした。
「ゴルドン殿、久しいな」
「おうおう、ローザ様もご一緒とは。里が一気に華やかになりましたわぃ。そちらの綺麗なお嬢さんは?」
「ハヅキと申します。お見知りおきを」
「うーむ、これはまた素晴らしい美しさ」
「ハヅキは俺の知り合いで、ダムニスから来ました」
ゴルドンの表情が、不意に厳しくなった。
「ダムニス……。噂は耳に届いておりますじゃ。とても大変だったとか。立ち話もなんじゃ。我が屋敷でゆっくりと」
俺たちは、ゴルドンに案内されて屋敷に入った。
「急なことで、たいしたおもてなしもできませんが。ゆるりと飯を食べて、お泊りになってください」
広い土間の、使い込まれた立派なテーブルを囲む。
ゴルドンの娘や孫なのだろう、可愛らしいドワーフたちが、お盆にいっぱいの料理と酒を運んできた。
「おお、これは美味しい!」
思わずため息が漏れた。
ドワーフの料理は、肉は使わず、野菜や豆、穀物を中心とした素朴なものだった。
野菜たっぷりのシチューは、よく煮込まれていてトロトロだ。
固めのパンが添えられていて、浸しながら食べるのが美味い。
茹でた豆や、芋のサラダにも、どこか懐かしい味を感じる。
「くぅ……この一杯が、また格別……!」
ジョッキになみなみと注がれた黒エール。
深い味わいの中に、ほんのりと甘みもある。
何かハーブが入ってるのか、後味が爽やかで、いくらでも飲めてしまう。
「ところでゴルドンさん。今日はお願いもあって参りました」
ジェラルドからの手紙を、ゴルドンに手渡した。
「ふむ。弟は息災ですかな」
「ジェラルドがいてくださるおかげで、始まりの街はおおいに助けられております」
「ほっほっほ。そうかそうか。あやつは若い頃に、里が合わんと飛び出した男でなあ。どれどれ……」
手紙を読み進めていくうちに、ゴルドンの顔が険しくなっていく。
ときおり、ジロリと俺を睨みつけるのが、また居心地が悪い思いだ。
「ふぅむ……。なんとも……」
「いかがでしょうか。私どもとしては、ぜひドワーフの里の力をお借りしたいのですが」
「力になりたいのは山々じゃがのぅ。ここのところ忙しくてのぅ」
「おじいちゃん! この間は暇で暇でしょうがないって言ってたじゃない!」
ルビーに言われ、ゴルドンは少々ばつの悪い顔をする。
「いや、違うのじゃよ、ルビー。儂らはな……」
「毎日エール飲んで騒いでるだけでしょ! お兄ちゃんたちが困ってるんだから、助けてあげて!」
「すまぬ、ルビー。そういうわけにはいかぬのじゃ」
なにやら、例の気難しさというか、素直にうんと言ってくれない感じだな。
ルビーが言ってもダメだということは、何かしら違うひと押しが必要なのかもしれない。
「もういいよ! おじいちゃんのバカ! きらい!」
バンッとテーブルを叩き、ルビーが飛び出していく。
「あぁ……ルビー! くぅぅ、だが、ダメなのじゃぁ! すまん、儂は力を貸せぬのじゃ!」
泣きそうな顔をしながら、ゴルドンがルビーを追いかけていった。
ゴルドンを悩ませているのは、いったい何なのだろう。
ドワーフの里にも、何か問題が起きているのだろうか。
「困ったな。どうしたもんか」
「何か隠している感じがあるわね。ゴルドンのやつ」
ハンナさんの言葉に、ローザも頷いている。
「いずれ、明日もう一度だ。今日はのんびりさせてもらおう」
せっかくのおもてなし、残してはもったいない。
周りで給仕をしてくれていた皆さんも、困った顔をしている。
「おお、ハンナにローザ姫じゃ」
「いつ見ても、お美しいのぅ」
ドヤドヤと騒ぎながら、ドワーフの男たちがなだれ込んできた。
みんな、手にジョッキを持参しており、中には樽をかついできた者もいる。
「久しぶりの宴じゃ! 今夜は飲み明かしましょうぞ!」
静かな食卓だったのが、一気にやかましい宴会に変わっていく。
ドワーフたちの飲み方は、まるで水をがぶ飲みしているみたいだ。
それに負けじと、ハンナさんやローザがジョッキを傾けている。
ハヅキは隅で静かに飲んでおり、カリンは引きつった顔でジュースをすすっていた。
まあ、とりあえず、皆さんとの宴会を楽しむことにしよう。
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