21.ドワーフの里へ
「うん、すっかり回復したな」
ローザ姫が、湯船からザバッと立ち上がる。
その音に思わず視線が向き、真正面からローザ姫の体を見てしまった。
「リク殿、感謝する。おかげで前よりも体調が良いくらいだ」
「あ……いえ、はい。それは良かったです……」
白銀色に輝く髪に美貌、竜人族の姫にふさわしい気品がある。
気の強そうな切れ長の目や、艷やかな唇が色っぽい。
真っ白な肌に、ハンナさんとタメを張るスタイルの良さ。
グラビアアイドルが、裸足で逃げ出すほどの迫力だ。
「リクさん! 見ちゃダメです!」
カリンが俺の目を手で覆った。
「ローザ、服……、あと、鎧もどうするか」
「ボロボロだな。里に帰らねば新しいものが用意できん。男らのを借りるのも気が引けるな」
ハンナさんとローザ姫は、何も気にしない風で話している。
「装備なら、俺がすぐに直せますよ」
「なんと! 頼む、リク殿」
「じゃあ、その間に体を拭いておこう」
ローザ姫に背を向けると、ハヅキとカリンが装備を持ってきてくれた。
鎧に服、下着といったところか。
この世界の女性は、ブラジャーの代わりに、タンクトップのようなものを着ている。
ローザ姫もそこは同じのようで、さらさらとした良い素材のものを使っている。
下には、スパッツのような鎧下をつけていたようだ。
カリンの装備を作ったときに、糸は大量に余らせている。
坑道で倒した敵から、鉄鉱石を手に入れていたのもラッキーだった。
これらの素材と、手持ちの魔石を組み合わせれば、新しい装備に生まれ変わる。
スキル”創造”を発動すると、装備の周りに白い粒子が舞う。
「できました。ローザ姫、こちらをお召しください」
「すまぬ。手間をかけたな」
ハンナさんが手伝い、ローザ姫が装備を身に着けていく。
「おお、これは見事。前よりも軽く、それでいて防御力もしっかりしている。リク殿の力は素晴らしいな」
肩を回したり、足を踏み鳴らしたりしながら、ローザ姫は満足そうに頷いている。
喜んでもらえて、俺としても満足だ。
「よし、これならもう大丈夫だ。ドワーフの里へ行くのであろう? 私も同行しよう」
グレンから長剣と巨大な盾を受け取り、ローザ姫は力強く言った。
まさに、人の上に立つ資格を持つ者が有する風格、聖騎士としての姿だった。
「姫様、お体は大丈夫なのですか」
「うむ、まったく問題ない。グレン、他の者を引き連れ里へ戻り、父上に報告せよ」
「はっ、かしこまりました。ハンナ、姫様を頼む」
「おう、任せろ。といっても、ローザに敵う者など、そうそう現れるものじゃないわ。むしろ、私たちのほうが守ってもらう立場かもね」
ハンナさんの軽口に、グレンはほんの少し笑みを浮かべる。
「では、姫様。失礼いたします」
グレンたちは竜に姿を変え、天井に空いた開口部から羽ばたいていった。
「ローザ姫、よろしくお願いします」
「リク殿、そうかしこまらなくてもよい。私のことはローザと呼んでくれ」
「分かりました、ローザ。では、俺のことも、リクと」
「うむ、よろしくな。リク」
ローザを一行に加え、ドワーフの里に向かう。
道中の戦闘は、より一層スムーズとなった。
これまでは、ハンナさんが危険を犯して、敵中に飛び込んでいた。
ハンナさんの実力であれば心配はいらなかったが、人数が少ないことで撃ち漏らす敵が出てこないとも限らない。
ローザが入ったことで、安定した戦い方ができるようになった。
まずは、盾役が持つスキル”敵意集中”で、ローザがモンスターを一手に引きつける。
あとはハンナさんの範囲攻撃や、ハヅキの弓や刀での攻撃で殲滅。
万が一はぐれたモンスターがいれば、ルビーが容赦なくハンマーで叩き潰す。
俺はカリンに攻撃がいかないよう、ひたすらガードに徹する。
ローザが誇るのは、高い防御力だけではない。
片手で長剣を自在に操る姿は、まるで一陣の風のようだ。
華麗な剣さばきで、一体ずつ確実に仕留めていく。
順調に歩を進め、坑道を抜けた。
どんよりとした曇り空の下、綺麗に並べられた石畳の道が伸びている。
山あいの盆地にひっそりと佇んでいる、ドワーフの里だ。
石と丸太で作られた小屋が建ち並ぶ、牧歌的な光景が広がっている。
水場の池を中心に、煙突から煙を立ち上らせる工房が並ぶ。
「お爺ちゃんの家は、一番高いところにあるよ」
ルビーが指差す先、小高い丘の上に、一回り大きな小屋がある。
あそこに、ドワーフの長老が住んでいる。
里の人々に挨拶をしながら、俺たちは一直線に長老の小屋へ向かった。
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