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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
二章 銭湯建設計画

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20.竜人族の姫 ローザ

 山岳地帯から、ドワーフの廃坑へ進む。

 大昔、ドワーフの里から掘り抜かれたという伝説のある坑道だ。

 内部は複雑に入り組んでおり、巨大なドーム状の空間もいくつかある。


 出てくるモンスターはコウモリや爬虫類、魂を持たない岩の魔獣などだ。

 コウモリは素早く、爬虫類や魔獣はとにかく硬い。

 だけど、ハンナさんやハヅキは熱したナイフでバターを斬るが如く、サクサクと倒している。


 俺はカリンとしっかり手をつなぎ、ハンナさんたちが切り開いた道を歩いていく。

 嫉妬の心はもはや無く、頼もしい仲間に安心して前衛を任せている。

 カリンは時折恥ずかしそうに俺を見つめながら、手をぎゅっと握り締めていた。


「妙な気配がある。止まって」


 立ち止まったハンナさんが、俺たちに警告する。


「これは……殺気……いや、覇気というべきでしょうか。モンスターではない、もっと高位の者が発する気配です」


 ハヅキも、油断なく武器を構えていた。

 俺ですら、坑道の奥から、凄まじい気が感じられる。


「この先は、大きな空洞があるところだよ。私が通ったとき、こんな気配なかった」

「ルビー、何か心当たりはあるか?」

「ううん。ここは修行で何度も来たけど、こんな気配を感じたの、初めてだよ」


 ハンナさんが先頭で、慎重に歩を進める。

 徐々に坑道が広くなり、大きな空間が見えてきた。

 どうやら、洞窟に繋がっているようだ。


「ん? こいつは、もしかして……」


 ハンナさんが呟いた瞬間のことだった。


『何者か!』


 突然、周囲の空気を震わせて、猛烈な叫びが叩きつけられた。

 殺気……いや、これはもはや覇気。

 瞬間的にカリンを抱き締めて、直撃を避ける。


「大丈夫か、カリン!」

「はっ……はいっ……うぅ……」


 カリンの顔が蒼白になり、ガタガタと震えている。

 これほどの覇気、まともに食らっていたら無事では済まないだろう。


「こんちくしょう。相手も確かめずに仕掛けてきやがって」


 怒りで顔を朱に染め、ハンナさんが駆け出した。


「こらぁ! グレン! てめえ、私が分からねえのか!」


 大音声を轟かせ、ハンナさんが仁王立ちをする。

 すると、奥からざわめきが聞こえてきた。


「俺たちも行こう」


 カリンを抱きかかえながら、ハンナさんのあとに続く。


「うぉっ! これは!」


 洞窟内にいたのは、たくさんのドラゴンだった。

 中でも一際巨大な黒い竜が、ハンナさんに向けて首を伸ばしている。


『これはこれは、ハンナではないか。異なところでお目にかかる』

「まったく! 私の存在を感知できないなんて、耄碌(もうろく)したか? グレン!」

『すまぬことをした』


 頭を下げた黒竜が、すうっと消えていく。

 あとには、黒の鎧に身を包んだ壮年の男が立っていた。

 グレーの髪を後ろに撫でつけた鋭い目をしており、油断なく俺たちを見つめている。


「久しぶりだな。息災でなによりだ」

「おぅ、お前も変わらないな。みんな、こいつは私の昔なじみで、竜人族のグレンだ」


 竜人族、設定上は聞いたことがあるが、出会うのは初めてだな。

 スカーレット戦記のバックグラウンドとなる伝説に出てくる種族だ。

 人里には近づかず、遥か高山地帯の一角に街を築いているという。

 その竜人族が、なぜこんなところにいるのだろう。


「お初にお目にかかる」


 グレンは丁寧にお辞儀をすると、ルビーに視線を向けた。


「そちらのお嬢さんは、ドワーフの司祭ではないか」

「うん、そうだよー」


 ルビーが笑顔で答える。

 カリン以外は、グレンの覇気の影響を受けていないようだ。

 ほんと、とんでもない女の子たちだな。


「すまないが、姫様が大怪我をされたのだ。回復をお願いしたい」


 グレンの案内で、俺たちは洞窟の奥へと進む。

 そこには、神々しいほどに光り輝いた白銀色のドラゴンが、体を丸めていた。


「我らが愛する姫、ローザさまだ」

「ローザ! どうしたんだ。この怪我は」


 ハンナさんが驚いて駆け寄る。

 白銀のドラゴンは、弱々しく唸り、ハンナさんに頭を擦り寄せた。


「ダムニスの上空で、白い光で攻撃されたのだ。何の前触れもない、凄まじい攻撃だった。姫は我らをかばい、このような……。なんとか逃れてここに運び込んだのだが……」


 グレンが、歯を食いしばるように言った。

 白銀のドラゴン、ローザはかなりの怪我を負っている。

 翼がズタズタに裂け、腹部に深い傷が刻まれている。

 少し身動きすると血が噴き出し、あたりを朱に染めていた。


「これは……いけない……」


 ルビーは急いで回復魔法を唱える。

 少しずつ傷が塞がっていくが、巨体も相まって回復の進みが遅い。


「お兄ちゃん、ダメ。追いつかない」

「リク、お前のスキルで何とかならないか」

「いけると思うけど、ドラゴンのままじゃ厳しい。だけど、この状態で人型になるのは可能なのか」


 すると、ローザがじっと俺を見つめてくる。

 慈愛と威厳に満ちた、全てを見通すような瞳だ。


『貴方の力で、私を癒せるのか……』

「任せてください。俺はグランドマイスター。俺のスキル”温泉”を使い、そのお湯に浸かっていただければ、たちどころに傷は癒えます。ただ、その間、姫が耐えられるか……」

『いずれ、このままでは死んでしまう。貴方の言葉に偽りはない。信じて任せよう』


 ローザの体がぼうっと光に包まれ、姿が小さくなっていく。


「ぐっ……うああぁ……」


 人型になったローザは、ボリュームのある白銀色の髪を肩で切り揃えた、清楚な美女だった。

 髪色と同じ白銀色のフルプレートが無惨に砕け、腹部から大量の出血がある。

 ハンナさんが肩を貸し、ルビーが回復魔法をかけ続ける。

 素早くあたりを見回し、ちょうど良い深さの窪みを見つけた。


「ローザ姫をここへ」


 ダムニスの倉庫で保管していた、最高レベルのグレードSの魔石。

 あまりにレアな魔石なので、これを使ってスキルを出したことはない。

 これでいけるはず……いってくれ、頼む!


「湧き出よ! 温泉!」


 眩いほど青白く輝く湯が湧き出し、窪みに溜まっていく。

 そこへ、鎧を着たまま、ローザ姫が身を横たえた。


「う……あぁ……痛みが……引いていく」


 苦痛に歪んでいた、ローザ姫の顔が和らいでいく。

 ハンナさんが体を支え、ほかのみんなは傍らで息を呑んでいた。


「これは……凄い。リク殿、貴方は素晴らしい力をお持ちだ」

「ゆっくりと、身を休めてください。浸かっていれば、傷は治るはずです」

「ええ、とてもいい心地だ。感謝する……」


 青白かった顔に血色が戻り、腹部の出血も治まってきている。

 だが、鎧をつけたままでは、湯の効力は限定的だろう。


「ハンナさん、鎧を脱がせられますか。そのほうがお湯の力が」

「そうか。よし、やってみよう。グレン、男たちは横を向いていてくれ」


 グレンは他のドラゴンに指示をして、ローザ姫から離れた。

 ハンナさんはローザ姫に声をかけながら、ゆっくりと鎧を外していく。

 下に身に着けていた服も脱がせ、裸にして湯に浸からせた。

 魔石を構えながら、ローザ姫の体を直視しないよう、そっと目を背けた。


「先程より、さらに心地よくなった。なんという力……。傷が塞がっていく」

「良かった……。弱ってるお前なんか、見たくないわ。早く治して、いつものようにやりあいましょう」

「ふん。さっきまで涙目だったのに、よく言うものだ。でも、感謝する。あなたたちが来てくれたのは、本当に幸運だった。でなければ、早晩にも私は命を落としていた」


 ハンナさんは、ローザ姫とも仲が良いみたいだ。

 憎まれ口を叩きながらも、無事を喜んでいる。

 姫の傷が癒えるまで、ゆっくりとお湯に浸かってもらった。

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