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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
二章 銭湯建設計画

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19.カリンの想い

 なんだか眠れなくて、一人、森の一角に溜めたお湯に浸かる。

 心の中に黒い霧がかかったような、おかしな気分だった。

 じっと考え事をしていると、深い沼に沈み込みそうな、暗い気持ちになっていく。


「リクさん」


 ちゃぽんと音がして顔を上げると、カリンが隣にいた。

 お風呂だから、もちろん服は着ていない。


「おわっ!」

「しーっ。大声出すと、みんなが起きちゃいます」

「ごめん……てか、どうしたんだ」


 視線をあらぬ方向に向けながら、カリンに尋ねる。


「なんか、リクさんが元気なかったから、心配になっちゃって」

「そんなに? ごめん、心配かけてしまったね」

「ふふっ、沈んでいるなんて、リクさんらしくないです」


 カリンは微笑みながら、スッと体を寄せてくる。

 お湯の中で肩が密着して、心臓がドクンと跳ね上がった。


「どうしたんですか?」

「いや、言うほどのことじゃないよ」

「ダメです。言ってください。そんなしょんぼりしてるリクさん、初めて見ましたよ」

「うぅ、でもなあ」


 すげえ小さな男に見られる気がして、カリンに言うのはためらわれた。


「大丈夫です。お母さんもハヅキさんも、ルビーちゃんも眠っています。誰にも言いませんから、話してください」


 微笑みを絶やさず、真摯な目でカリンが見つめてくる。


「笑うなよ」

「ええ、もちろんです」


 カリンは俺の肩に頭をもたれさせながら、優しく言ってくれた。


「昼間、ハンナさん、凄かっただろ」

「そうですね。お母さんがあんなにすごいなんて思いませんでした。

「ハヅキやルビーも凄かったよな。あれを見て、自信が無くなっちまったんだよ」

「自信……ですか」

「ああ。カリンと出会って、始まりの街に行って、みんなの役に立ったり、シェリルたちを教えたりしてるうちに、ちょっと天狗になってたのかもしれない。所詮、俺なんて戦闘職じゃないし、ハンナさんたちのように戦うことはできないんだなって思い知らされた。なんか、自分が情けなくなっちまってな。ごめん、こんなくだらない理由で……」


 しばらく沈黙が流れたあと、カリンは優しい笑顔を浮かべた。

 ちっぽけな嫉妬に凝り固まった俺の心を、ふわりと溶かしてくれるような笑顔だった。


「全然、くだらなくないです。私も、何もできない自分に引け目を感じていましたから」

「カリンは仕方ないだろ。冒険者じゃないんだし。でも、俺は……」

「リクさんは私の命の恩人です。そして、今日も私を守ってくれました」

「ただ立っていただけだよ」


 カリンの笑顔が眩しすぎて、目を閉じて誤魔化した。

 すると、柔らかい感触が唇に伝わる。


「カリン……?」

「リクさんが、私を守ってくれていたから、お母さんたちは何の心配もなく戦えたんです。寝る前に、お母さんが言ってました。リクがいるから、心置きなく戦えるって。お母さんや、ハヅキさんたちにとって、リクさんは、私を安心して任せられる。そういう存在なんです」


 不覚にも、涙が出そうになってしまった。

 ハンナさんたちに嫉妬していたことが、心の底から恥ずかしい。


「リクさんがいてくれるから、私も頑張れるんです。あの声が聴こえて、旅立つことを決意しましたけど、本当は怖いんです。モンスターも怖いし、あの声が何を意味しているのかも、不安でたまりません」

「まだ、声は聴こえるのかい?」

「はい、ときどき。カリン、あなたを待っているって……。とても優しい声なんですけど、不安は募るばかりで」


 そうだ、思い違いをしていた。

 カリンは冒険者ですらない、普通の女の子だ。

 自分には何もできないと思っていたが、それは大きな間違いだ。

 俺には、カリンを守るという大事な役目があるじゃないか。


「怖さも不安もあるけど、きっと、何があっても、リクさんが守ってくれる。そう思って頑張ってます。初めて会った日、私を助けてくれたリクさんの姿、しっかり覚えています。気づいたら裸でびっくりしましたけど、リクさんの優しい笑顔、忘れていません」

「いや、なんかごめん。あのときは仕方なく……」

「分かってますよ。だから、恥ずかしくないふりをしてたんです。本当は心臓バクバクだったんですから」


 カリンは頬を赤らめて、クスクスと笑った。


「あのときから、また世界が動き出した気がするんです。冒険者がいなくなった街に、リクさんが活気を取り戻してくれた。まどろみ亭も、前みたいに賑わうようになって。全部、リクさんが来てくれたおかげなんです」

「俺は別にたいしたことは……」

「ふふっ、そうやって、ずっと謙虚だから、街のみんなも慕うんでしょうね。私が言うのも変ですけど、もっと自信を持っていいと思いますよ」

「そうかなぁ……。でも、カリンがそう言ってくれるのは、とっても嬉しいよ」

「ありがとうございます。私、リクさんのこと、大好きです」


 しばしの沈黙が流れ、再び唇に柔らかな感触が伝わる。

 さっきのは不意打ちだったが、今度のは長く、愛情が溢れていた。


「リクさん、私を守ってください。これからも、ずっと。そしたら、何があっても怖くないです」

「うん、任せろ。必ずカリンを守る」

「はい! それと、もうひとつ……」


 カリンが正面から抱きついてきた。

 耳元に口を寄せて、小さな声で囁いてくる。


「私に、勇気をください……」


 静寂に包まれた森の中に、カリンの囁きが吸い込まれていった。

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