1.気がついたら異世界でした
全年齢ファンタジー初挑戦な作品です(●´ω`●)
『まもなく、サービス終了となります。これまでスカーレット戦記をプレイしていただき、まことにありがとうございました。プレイヤーの皆様に感謝を……』
全体チャットにGMのメッセージが流れている。
それに呼応して、プレイヤーたちが一斉に『ありがとう』と叫んでいた。
10年以上プレイしてきたVRロールプレイングゲーム『スカーレット戦記』も、今日で最後。
あくせく働いている日常の中で、唯一の癒やしであった場所が無くなってしまう。
俺は寂しさを感じながら、徐々に暗くなる世界を見つめていた……。
社会人になって数年、思い返せば辛いことばかりだった。
そんな俺の心を癒やしてくれたのが、スカーレット戦記。
初めはごく普通のロールプレイングゲームで、自由度も高くて、俺は製作職として廃プレイを極めていた。
だが、同盟と呼ばれる、プレイヤー同士のコミュニティが実装されてから、ゲームの方向性が変わっていった。
様々な拠点をプレイヤー同士で戦って奪い合う、同盟戦が盛り上がったのだ。
対人戦が苦手な俺は、そのシステムに馴染めなかった。
だから、アイテムを作ってサポートする側にやりがいを見出したのだ。
同盟戦は大量のアイテムを使うことになる。
そこで、アイテムを制作して、プレイヤーに売りまくってお金を稼いだ。
製作でも地味に経験値は入るので、10年もこつこつやり続けた俺はレベルMAX。
戦闘特化のジョブには敵わないまでも、大抵のモンスターは雑魚と化している。
それに課金でバッチリ固めた装備は、スキルを組み合わせればほぼ無敵だ。
しかし、すべて儚き夢だった。
あと数分もすれば、データの海の向こう側へ行ってしまう。
これから、俺は何を支えに生きていけばいいんだ……。
そう思いながら、ゆっくりと暗くなっていく画面を見つめていた。
「ん……?」
気がつくと真っ暗だ。
見上げると、夜空……?
草むらの中で、大の字になって倒れていた。
おかしい。VRゲームのはずなのに、妙にリアルだな。
頬に触れる雑草、生ぬるい地面の感触。
「なんだ? これは、いったい……」
VRヘッドセットの感触が無くなっている。
これ、もしかして、ゲームの世界に取り残されたってやつか?
ラノベやアニメで散々やられてるベタな展開が、我が身に降りかかったというのか。
いくら人生に希望が持てなかったとはいえ、ゲームの世界にって……。
でも、面白いかもしれない。
早朝に起きて満員電車に揺られて出勤し、終電ギリギリで帰るだけの生活。
毎日変わらない日常に飽き飽きしていたところだ。
これはもしかして、ゲーム世界で新生活ができるチャンスじゃないか!
独身で彼女なし、お先真っ暗な俺に、神様がくれた贈り物だ!
「うおぉぉぉ!」
興奮が沸き上がり、大声で吠える。
大地を踏みしめる感覚、体に感じる風、そしてとても美味い空気。
紛れもない、人間としての感覚だ。
なんだか、ワクワクしてきたぞ。
スカーレット戦記は、VR草創期のゲームで、リアルなグラフィックが売りだった。
本当に異世界へ飛び込んだような、最高の没入感を味わえた。
そして今、まさに異世界が、目の前に広がっている。
終わりだと思っていた世界での冒険の続きを、俺はプレイできるんだ。
さて、どうやって楽しんでいこうか。
スカーレット戦記は、直感的な操作がウリのゲームだ。
ボタンやキーを押すのではなく、コントローラーのアクションでスキルを発動できたり――そういえば、スキルって使えるのかな。
ゲームのときは画面の右下に、スキルのアイコンが出ていたけど……。
少し体を見回してみると、右腕に紋様が浮いているのに気づく。
スキルアイコンと同じものだ。
試しに、戦闘系の強化スキル『不撓不屈』を使ってみる。
ゲームのときと同じように、右腕をこう振って……。
ブゥン……。
「おおっ!」
体が青い光に包まれ、筋肉がみちっと音を立てて強化されていく。
スキルレベルマックスだから、一度の発動で、1時間強化される。
筋力や体力、防御力などが素でアップされる、非常に便利なスキルだ。
だけど、これだけでは少々心もとない。なにしろ、この俺の格好……。
布のシャツにズボンという、スカーレット戦記の初期装備になってしまっている。
課金装備で全身を固めていたのに、いったいどこにいったんだ。
素手と布の服では、何かあったときにどうにもならない。
しかも、冒険者カードも無くなっている。
アイテムやお金を収納できる魔法のアイテムで、冒険者としての証でもあるのに。
手ぶらでのリスタートというのは、さすがに辛いものがあるぞ。
他の職業のプレイヤーだったら、割と詰んでたかもしれない。
だが、幸いなことに俺は製作職を極めている。
スカーレット戦記における俺の職業「グランドマイスター」は、アイテムを作り出すことができるのだ。
落ちている手頃な木の枝を拾って、スキル『創造』を試してみる。
ゲームの中と同じように、素材となる木の枝を地面に置いて、両拳を合わせて念じた。
頭の中に、幾多の設計図が浮かんで流れていく。
長いゲーム期間中に、あらゆるアイテムの製作図を集めていてよかった。
木の枝が青い光を帯びて、みるみるうちに槍へと変化していく。
「うん、まあ、こんなもんか」
枝が硬化して真っ直ぐになり、先は鋭く尖っている。
軽く振り回してみると取り回しもしやすく、使い勝手は良さそうだ。
なんの変哲もない木の槍だが、職業適性がある武器だから、対応する攻撃スキルも揃っている。
魔石やら鉄鉱石などの素材があれば、もっと良いものを作れるが、贅沢は言えない。
基礎的な攻撃スキルや戦闘補助スキルを使えば、そうそう遅れを取ることはないだろう。
それに、このあたりは人間族のスタート地点『始まりの街』付近の高台だ。
初心者向けの弱いモンスターしかいないし、とりあえずの武器があれば大丈夫。
「よし、じゃあ、行ってみるかな」
遠くに見える『始まりの街』の光。
あそこを目指せば、なにか分かるかもしれない。
もうお別れだと思っていた、スカーレット戦記の世界。
ここで、これからどう生きていくか。
他にも、取り残されたプレイヤーがいたりするかもしれない。
定番の、女の子と知り合って魅惑のハーレムなんてのもあったりしてな。
うん、夢が広がるぜ……。
そう思って足を踏み出した瞬間のことだ。
「……キャァァ……!」
遠くから、女の子の悲鳴が聞こえてきた。
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10万字くらい書き溜めあるので、頑張って更新していきます!
お楽しみに!